こんにちは、プリンシプルの楠山です。先週、パランティアテクノロジー社(以下、パランティア)について書きましたが、今回はパランティアの2兆円といわれる企業価値が高いのか低いのか、についてデータ解析のビジネスモデルから分析する、という興味深い記事がありましたので共有します。
1:パランティアの苦しみについての記事
今年、2016年5月にパランティアテクノロジー離れが進んでいる、という記事がBuzzfeedというメディアに掲載され話題になりました。
Inside Palantir, Silicon Valley’s Most Secretive Company (May 6, 2016)
コカ・コーラやアメックスなどの大きなクライアントが、パランティアのデータ解析サービスに月額1億円以上の価値はないと判断し、離れていっていることや、社内の離職率が高くなっている、といった内部文書を元に書かれた記事で、パランティアのここ最近の苦しみにについて書いてあります。
(余談ですが、ここまで秘密が保たれてきたパランティアについて細かく書いてある記事は珍しく、社内でのクライアントコードなどについても書いてあります。日本のローソン社を”Pikachu”と呼んでいたのは茶目っ気があります。)
本記事をそのまま読むと、秘密主義の急成長ベンチャー企業のスキャンダルとネガティブな内容の記事で終わってしまいます。一方で、この記事について、「現在2兆円でAirbnbやUberに匹敵するといわれる企業価値が本当にふさわしいのか?」についてデータ解析のビジネスモデル視点で書いている記事があります。
それがデータ解析専門のブログ http://simplystatistics.org/ のサイトを運営するRoger Peng氏の「The Real Lesson for Data Science That is Demonstrated by Palantir’s Struggles」という記事です(2016年5月11日掲載)
2:ソフトウェア型かコンサルティング型か?
Roger Peng氏はこのブログの中で、お客が離れたり、人が抜けるということは、ベンチャー企業が大人の企業に脱皮するうえで伴う痛みのようなもので、会社自体は確実に収益と顧客基盤を増やしている素晴らしい企業、と評価しています。また月額1億円~という高すぎる料金だからこそ発生している事象であり、実際にデータを活用したいというニーズを持つ企業はまだまだたくさんいると思われ、ビジネスのニーズも間違いなくつかんでいるといえるでしょう。
さらにこの記事では、「今後パランティアのデータ解析というビジネスがどのようにスケールしていくのか?」、「そのビジネスモデルと現在のシリコンバレーの期待値は合致しているか」、という点を論じています。
ブログの中で、データ解析という活動においては2つの方向性がある、と上記イラストとともに伝えています。
- ソフトウェア型
- カスタマイズを伴うコンサルティング型
データを活用について課題を抱えているお客様がいた時に、ソフトウェア型は、例えばGoogleアナリティクスやOptimizelyなどのソフトウェアを自社開発するモデルで、クライアントにはIDやPasswordを渡し、いくつかの活用マニュアル、そして簡単なトレーニングを施してあとはお客様でやってもらう、というアプローチです。
それに対し、コンサルティング型とは、実際にそのお客様に会って、解決したい内容をヒアリング、分析の方向性や設計をし、カスタマイズした形でお客様が望む方法で納品物を出す方法です。
コンサルティング型 | ソフトウェア型 | |
特徴 |
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リスク | 低い
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高い
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*限界費用とは,生産量を1単位増加させるのに必要な追加的な原材料費や賃金。一度ソフトを作ってしまえば、その後は売れるごとに費用は発生せずに利益となります。
上記表のとおり、ソフトウェア型は基本的に安く、シンプルで、人と話すことなくソフトウェアのみで問題解決ができてしまうモデルです。そのため、限界費用が少なく、労働集約型ではなく、無限にスケールするビジネスモデルです。一方デメリットとして、当然競争も激しく、1つ目の成功があっても、ほかに真似されるリスクも含めハイリスクなモデル、ただいわゆるシリコンバレーらしいプロダクト文化なモデルです。
一方、カスタマイズを伴うコンサルティング型は労働集約型で、時間がかかり、基本的に人を増やすことによってしか売り上げはスケールしません。ただメリットとしては開発リスクがなく、今ある主要ソフトを選ぶことができ、そこに付加価値やカスタマイズを入れていくためクライアントとの関係も長続きしやすい、ということがあります。
パランティアのデータ解析サービスについても、当然この2つの観点から将来のスケールについて考える必要があります。
3:データ解析サービス提供の際のハードル
またこのブログの中で伝えているのは、パランティアが提供するデータ解析サービスに関するハードルです。それはパランティアが、「自社のデータ解析の価値をどうお客様に伝えるか?」ということです。
実際に、文中に記載された顧客のケースを見る中で、パランティアがデータ解析のサービスを提供する際のハードルを指摘しています。
データから知見やアクションが得られない
実際にデータ解析サービスを導入する際、多くのお客様はデータ解析をすると驚きの結果であったり、彼らが全く気付いていなかったことを期待しています。実際にデータに「ダイヤモンドの原石」が埋まっていると信じるのでお金と時間をデータ解析に使うわけです。
しかしながら「データを見てみたのだが、結局わからなかった、なのでこれ以上お金とリソースを割く価値がない」、「面白いデータは出てきたのだが、それをビジネスに活かすとなるとイメージが沸かない」となるケースがよくあります。
これはアメリカンエクスプレス社を担当したパランティアの営業担当者も、「初日からパランティアのデータ解析の価値をいかにアメックス社に理解してもらうか苦労した」と話しています。
コンサルに業界経験がない
コカ・コーラ社のケースではパランティア社に業界の知識や経験をクライアント側は求め、パランティアの若いデータ解析士は結果的にはフィットしなかった、とのことです。データから読み取れる数字や勘所も、業界経験がある人、特に深く関わっていた人のほうが気付きやすく、アドバイスにも深みが出ます。その点、パランティア社は元々政府や軍事関連の解析ノウハウにおいては強かったが、一般企業になると本当に強いか、という疑問を感じた、とのことです。
自社でやったほうが安い
最後にKimberly-Clarkという消費財会社の事例では、事業会社は、データ解析は結局自分たちでやってみる、つまりインハウスでやるほうが安いのでは、と考えた、とのことです。確かにいったん仕組みとしてデータ取得の設計であったり、最終的なレポートの型などができれば、インハウスで行うほうが運用コストは安いといえます。その点、パランティアのモデルはデータ設計や構築でデータを取るところに労力をかけ、将来の成果報酬で収益を取ろうとしているモデルですが、運用フェーズに入った事業側からするとどうしても高いコストに見えてきてしまいます。
4:パランティアの時価総額は割高か?
それらの課題を抱えつつも、圧倒的なスピードで成長をしてきた同社ですが、つまるところ何が、パランティアテクノロジー社の時価総額をそれほどまでに押し上げているのでしょうか。
パランティア社は自社と下記のように定義しています。
The company, based in Palo Alto, California, is essentially a hybrid software and consulting firm, placing what it calls “forward deployed engineers” on-site at client offices.
下線の 「a hybrid software and consulting firm」、つまり「ソフトウェアとコンサルティングのハイブリッド」が、投資家にとって、現在、ソフトウェア会社である、あるいは今後ソフトウェア会社として展開していく、という期待が時価総額を高めているといえるでしょう。
もしコンサルティング会社ということであれば、当然今後も売上や利益は高いまでも、ここまでの企業価値となることはないでしょう。しかしもしソフトウェアを売ることが現在の価値ということであれば、彼らの企業価値はむしろ低いといえるかもしれません。
最後に著者であるRoger Peng氏は、「本当はソフトウェアモデルか、コンサルティングモデルのどちらなのか?が今後は問われる」。そして実態としては、ソフトウェアというものに、複雑な大きなデータを入れこむ設計の難しさを考えると、パランティアのモデルはカスタマイズを中心としたコンサルティング会社と言え、そうだとすると今の時価総額は行き過ぎと考えられ、そうするとシリコンバレーの皆が期待するような会社ではない、と結んでいます。
弊社もGoogleアナリティクスというソフトを使ったコンサルティング会社であるため、パランティアのビジネスの動向は大変気になるところです。今後もトレンドをウォッチしていきます。