経営陣が海外に進出したいと本気の覚悟を決意し、そのための投資も用意したところまでが前回の話である。いわゆる、「ヒト」「モノ」「カネ」のうち「ヒト」以外を手当てした段階だ。
今回の話は、海外事業を確実に展開するため、「ヒト」そして組織をどのようにマネージメントするべきかについて触れてみようと思う。
社内の誰を登用すべきか、タフな環境でも推進力を維持していくことができる、適切な人材を海外事業へ配置することの重要さ、現地でどのような人材を採用すべきか、そしてどのような組織運営にすべきか、私の経験を交えて説明したい。
記事の内容
- 海外ビジネス人材に求められる4つの要素
- 【国内人材】海外に誰を派遣するか?
- 【現地採用】海外ビジネスで活躍できる現地人材とは
- 米国流マネジメントスタイル
海外ビジネス人材に求められる4つの要素
海外事業には困難がつきまとい、日本では考えられないような問題が発生するのが通常である。そのため海外事業に携わる人材には、このようなタフな環境を乗り越えるために、次の要素が備わっていることが必要と考えている。
- 要素① 起業家マインド(起業や新規事業に携わった経験)
- 要素② 語学力(日本人であれば英語、米国人であれば日本語)
- 要素③ 現地でのナレッジ(知識・技術)
- 要素④ 多様性に対するリスペクト
メンバー全員でこれら4つの要素がバランスよく埋められれば、現地で戦える強いチームといえるだろう。
これらの要素について、当社の経験をマトリックスにすると次のようになる。
人材 | 起業家 マインド |
語学力 | 現地 ナレッジ |
多様性 |
---|---|---|---|---|
社長・楠山 | 10点 | 8点(日・英) | 4点 | 9点 |
現地人社員A | 7点 | 10点(日・英) | 9点 | 9点 |
現地人社員B | 10点 | 5点(英語のみ) | 9点 | 7点 |
現地人社員C | 4点 | 1点(英語のみ) | 6点 | 4点 |
- 現地人社員Aは日系のバイリンガルで、英語も日本語も堪能な人材である。
- 現地人社員Bは、米国にて自ら企業をしていた経験者。日本文学を専攻し、日本にも実際6ヶ月ほど滞在していた経歴がある、日本通の人材である。
【国内人材】海外に誰を派遣するか?
社内の誰を海外マーケットの開拓に登用するべきか、最初に悩むことになるだろう。次の要素を検討することが大切だと考えている。
- 要素① 国内でビジネスセンスを持ち合わせ結果を出してきた人材
- 要素② 違うチーム・環境でも結果を出してきた適応力
- 要素② 英語力はあればなお良し。必須ではない
ビジネスを展開していくのだから、当然、ビジネスセンスがあることが最優先事項である。できれば、新規事業を立ち上げた経験のように、推進力のある人材が必要だと思う。
また、ひとつの環境、例えば東京本社の営業で成績を上げた実績・経験も良いが、大阪や地方拠点など違う環境、違う人にも適応して結果を出した人材は、海外でも上手く適応できると考えられる。
逆に国内でTOEICの点数が高いとか、ある程度の英語力があるから、ということで決めるべきではない。もちろん語学力があるにこしたことはないが、それを優先すべきではない。
【現地採用】海外ビジネスで活躍できる現地人材とは
米国でビジネスを展開するために、日本からの人材も用意でき、現地でオフィスも構えることができた。次にどのような現地社員を採用すればいいのだろうか。
当然だが、現地のビジネスに精通するプロフェッショナルを採用しなければならない。米国マーケットが日本流を受け入れるかどうかは、米国人次第であるのだから、日本の経営感覚で、日本流に固執し続けてはいけない。
私の場合、次の要素を検討して現地で採用を進めたことをお伝えしたい。
- 要素① 米国のマーケットに精通し、0から1を作るのが好きな人
- 要素② 日本を好きで、かつ、日本を理解していること
私が実際に採用した人材は、米国のマーケットに精通しており、さらに起業経験者でもある。会社経営者として、様々な取引先のキーパーソンと独自のネットワークもある。米国で販路を拡大したい日本企業にとって、魅力的な人材だと思う。
また、私が彼を採用したもう1つの理由として、彼が本当に日本のことが好きであることだ。
日本の文化を理解しているだけではなく、実際に日本に滞在してまで日本を知ろうとした経歴の持ち主、という人材はそう簡単には見つからない。
この、日本に限らず、他の文化を尊重するか?楽しめるか?は、極めて重要と考えている。多くの現地人を面接してきたが、単に日本に興味がある程度では、ビジネスにおいて日本人との上手なコミュニケーションを取れるとは限らないし、日本のビジネスの良いところを米国に昇華させる発想も大事である。
米国流マネジメントスタイル
多様な考え方、様々な人種が交わる世界最大のマーケット・米国では、各個人・組織の自主性を重んじている。
しかし米国に会社を構え、現地人を採用でき、いよいよ事業を進めることになった段階では、まだ「日本流の経営」が土台になっていることが多い。
米国企業は日本企業のように、意思決定において「総意を得てから」動くのではない。権限を持つ者は、自らの裁量で意思決定してその役割を果たす、コミットメントの世界である。責任を果たせなければクビになることを自覚している。これが米国流である。
だから彼らに責任を持たせなければ彼らは動かない。
そのため、弊社プリンシプルでは、できる限り早い段階で、現地の会社のことは現地に任せる「権限移譲」を行うようにした。部分的な移譲では意味がなく、全面的な移譲が必須と考えているからだ。
最後にメルカリUSの事例を挙げておこう。
2014年1月にMercari,Inc(メルカリUS)が設立された。社員数は2020年6月末時点で205名である。その1年前の2019年6月末は204名、2018年6月末は153名、2017年6月末は108名だったので、2017年から人員が倍増したことになる。
これは、2017年6月にJohn LagerLing氏が事業に参画したことが転機になったのだろう。
彼はFacebookのVice Presidentとして新規事業開発や渉外業務の経験があり(それより前にNTT Docomoで働いていた経験もある)、メルカリUSのCEOとなって現地化を進めているのだ。
現在のメルカリUSの組織は、CEO、CTO、CCO等、C-levelは現地人である。経営は現地に移譲しているのである。これにより、米国マーケットに合わせたブランドロゴが刷新され、米国版のアプリでは「Sell」に特化した戦略を追加する等、日本版アプリとは異なるUI/UXで利用者を拡大している。
出典