こちらのプレスリリースの通り、当社は2021年7月末に北米の会社を買収した。この経験が海外進出する日本企業の役に立つのではと思い、M&Aの経緯を全6回で共有する。
第3回目は、前回までで絞り込んだM&Aのターゲット3社からどのように比較して1社を選択し、そしてM&Aの成約に結びつけたかについて、事業シナジー効果や戦略の視点から説明したい。
記事の内容
- M&A最終選考に残った3社
- 最終選考の内容と各社の評価
- M&Aオファーの経緯
M&A最終選考に残った3社
あらためて、最終選考に残った3社の概況を見てみよう。
(1)Eboost社
収益性、案件の時間管理などが「仕組み化」された事業モデル。今後も安定して事業を発展できる良い会社と判断できた。
(2)B社
組織で事業に取り組む姿勢と、顧客との関係が強固にあり、「中長期で持続的に収益を拡大できる」期待値が高いと考えた。
(3)C社
経営者のGrowth Mindが高く、こちらの高い数値目標を達成してくれる期待が持てた。またNasdaq上場シナリオについて反応が良く、一緒に上場を目指す目線が揃っている経営者であった。顧客数は3社の中で最も多いものの、収益単価は小さく、顧客との関係性が弱い印象があった。
最終選考の内容と各社の評価
最終選考にあたり、主観性をできる限り除くために、複数の評価項目を設定し、それぞれを10点満点で採点した。そして、総得点が高い企業、あるいは当社と最も高いシナジー効果を発揮できるかどうかを重視して、オファーを出すこととした。
以下では、総得点および重視した項目の検討内容をまとめる。
総得点の比較
eboost社 | A社 | B社 | |
総合得点 | 156pt | 156pt | 159pt |
総得点数を比較すると、3社のうちB社が最も高くなったが、その差はわずか数ポイントであった。各社とも事業発展に向けた特徴のあるバックグラウンドがあり、正直なところ、どの企業も魅力的で甲乙つけたがたい状況であった。
特に重視した項目
今回のM&Aで特に重視した評価項目は以下である。
- ①Finance面:黒字化のノウハウがあるか
- ②カルチャー面:当社と事業のシナジー効果を期待できるか
- ③Potential面:ビジネスを共にスケールさせることができるか
- ④Sales面:顧客基盤がしっかりしているか
(多面的に評価しているため、一部の項目は他の評価項目と重なることもある)
▼①Finance面「黒字化のノウハウがあるか」
- 今後の事業成長に必要な売上が備わっているか?
- 企業評価(バリュエーション)は適切か?
eboost社 | C社 | B社 | |
総得点 | 36pt | 37pt | 34pt |
Growth | 7 | 10 | 8 |
Business Model | 10 | 10 | 8 |
Easiness of Growth | 10 | 10 | 8 |
Easiness of Management | 9 | 7 | 10 |
※Principle M&A management sheet「Key peformance」より
▼②カルチャー面「当社と事業のシナジー効果を期待できるか」
- 人材交流、多様性、日本への理解は十分か?
- 成長意欲はあるか?
eboost社 | C社 | B社 | |
総得点 | 31pt | 29pt | 34pt |
Visionary mind | 10 | 7 | 10 |
Hands off mind | 8 | 8 | 8 |
Team oriented | 7 | 6 | 9 |
Stretch goal mind | 6 | 8 | 7 |
※Principle M&A management sheet「Cultureral fit」より
▼③Potential面「ビジネスを共にスケールさせることができるか」
- 当社とのシナジーはあるか?
- 所属するマーケットの立ち位置はどうか、戦っていけるか?
eboost社 | C社 | B社 | |
総得点 | 28pt | 23pt | 29pt |
Synergy | 10 | 10 | 10 |
Product portfolio | 10 | 6 | 10 |
Market positioning | 8 | 7 | 9 |
※Principle M&A management sheet「Strategy」より
▼④Sales面「顧客基盤がしっかりしているか」
- 属人的になっておらず組織として稼ぐことができているか?
- 顧客基盤は厚いか?
eboost社 | C社 | B社 | |
総得点 | 24pt | 21pt | 23pt |
Clients | 7 | 10 | 7 |
Business System | 9 | 6 | 8 |
IT/TP | 8 | 6 | 8 |
※Principle M&A management sheet「Assets」より
4項目の総得点をまとめると以下のようになる。これらを総合的に評価し、オファーの順番を決めていった。
eboost社 | C社 | B社 | |
①Finance面 | 36pt | 37pt | 34pt |
②カルチャー面 | 31pt | 29pt | 34pt |
③Potential面 | 28pt | 23pt | 29pt |
④Sales面 | 24pt | 21pt | 23pt |
M&Aオファーの経緯
コロナ禍前にオファーを出す
実は、今回のM&Aが決まる2年前の2019年12月の段階で、当社とのシナジーを期待できる企業としてeboost社にオファーを出した。しかし金額面で折り合うことができず、M&Aの話はいったん頓挫した。
その後、2020年3月からコロナ禍が始まることでビジネスの先行きも不透明となり、M&A活動も一旦保留となっていた。
絶好のM&Aタイミングでもう一度オファーを出す
その後いったんコロナ禍の影響も落ち着き、経済が落ち着きを取り戻しつつあった2020年9月よりM&A活動を再開。2021年1月にB社にオファーを出したのだが、投資予算が大きいことから決定にも慎重になり、最終的には決定に至らなかった。
そのような後に再度Eboost社に連絡。興味関心を聞き、M&Aの話を再開したのである。その時は、コロナ禍前とは状況も変わっていた。
米国のコロナ禍の影響はEboost社にとっても数値面でインパクトはあった。ただそれでも黒字で持ち堪えていた。コロナ禍を通して、会社に自力があることが確認できたし、バリュエーションが割安になったことも、当社にとって追い風になったと思う。
まとめ
今回は全6回の3回目として、M&Aのターゲット3社をどのように比較・選択し、M&Aの成約に結びつけたかの経緯を紹介した。事業シナジー効果を特に重要視したということがお分かりいただけたと思う。
次の記事では、今回のM&Aで利用したバリュエーション内容について説明したい。