こちらのプレスリリースの通り、当社は2021年7月末に北米の会社を買収した。この経験が海外進出する日本企業の役に立つのではと思い、M&Aの経緯を全6回で共有する。

第2回目の今回は、北米でM&Aを成功させるために考えたことを時系列に沿って紹介していく。

第1回目:我々はなぜ北米でM&Aを実行しようと考えたか?【北米M&A①】

記事の内容

  • M&Aの成功確率は非常に低い
  • M&Aのプロジェクトをだれに任せるか?が重要
  • M&Aのターゲット企業を3社へ絞り込んだ過程

M&Aの成功確率は非常に低い

M&Aは非常に繊細な取引だ。交渉相手がこちらに興味を持たなければ成立しないし、当初の思惑から軌道修正を余儀なくされることもある。そのため、M&Aの成功確率は非常に低いとされている。

日本経済新聞によれば、日本企業による海外買収の成功率は1~2割、海外企業同士でも5割程度とされている。

なぜか。

自らの成長戦略を描いた上でそれにフィットした会社にアプローチする主体的なM&Aか、それとも業者から提示された案件ありきで行う受け身のM&Aかでは、結果は大きく異なるからである。

このような厳しい現実を理解したうえで、以下では「我々が北米でM&Aをどのように進めてきたか」を説明したい。

M&Aのプロジェクトをだれに任せるか?が重要

M&Aを成功させるには、目的達成にコミットできる担当者を誰に任せるか?が極めて重要だと思う。担当者は自社の社員でも外部のAgentでもよいが、最も重要視したのは「M&Aを成功に導くと信頼できるかどうか」である。

この信頼とは何であるか。今回は以下を判断基準とした。

  • デューデリジェンスができる、もしくはプロジェクトマネジメントができる
  • 私との信頼が厚く、意向を汲み取ってくれる(日本人の心理を理解できる)

ハードルがかなり高いが、どれかが足りないと後々苦労することになると考えた。成功確率の低いM&Aでは、人選の段階から妥協すべきではない。

M&Aの担当者となったアメリカ人のMaxを紹介しよう。彼とは米国で「UPWORK(世界的規模のフリーランサー向けマッチングプラットフォーム)」を通じて、M&A案件を依頼する中で信頼関係を構築してきた。

米国イェール大学でファイナンスのMBAを取得し、自ら会社を経営していた経歴を持ち、さらに日本に対する深い洞察もある。まさに理想とする人材だ。

M&Aのターゲット企業を3社へ絞り込んだ過程

Agentやマッチングサイトも利用してみたが、結局は自分たちでターゲット企業を探す方法がベストだった。

ここでは企業の発掘から最終ターゲットまで絞り込んだ過程を説明したいと思う。

(1)70社を抽出

まず、企業データベースの記載がある「crunchbase.com」をメインに利用して、Target企業を抽出した。

ここで企業情報を収集し、レピュテーション(5段階の星の数、内容)を考慮してスクリーニングし、70社を抽出した。

(出典)crunchbase

(2)70社へアプローチ、15社と接触

スクリーニングした企業について、LinkedIn(有料課金で電話が可能)から、CEOに直接電話した。

コンタクト電話は、アメリカ人のMaxから7066社にアプローチしてもらった。彼はHigh Profileな人材なので、先方が興味を持ちやすい。ここではCEOには買収ではなく、アメリカでパートナーを探している旨を伝えていることも大切である。

15社と電話し、時にはビデオコールなどのコミュニケーションを取った結果、うち5社が売却可能性を検討すると約束してくれた。

(3)5社へ絞り込み、ターゲット企業のCEOと直接交渉へ

5件まで絞った会社に対して、より確度の高い見込み案件に集中した。

そもそも我々がターゲットとした企業は業績が順調であり、会社を売る気がない人を売る気にさせるのが難しい。それでも我々の話を聞いてくれたのは、西海岸の風土柄もあり、経験からCEOの70%はグローバル化に興味があったからだと思う。

ビジネスを一緒にスケールさせよう、グローバルにやろうと提案することで、走るつもりがない人を走らせる気にさせていく、その過程の醍醐味・面白さを感じた。

(4)最終交渉先を決めるため、3社へ絞り込み

これら5社のCEOは皆、日本に対する理解、グローバルに活躍していく強い気持ちがあり、素晴らしい会社だったが、事業への思い・共感の程度を確認して、さらに3社まで絞り込むことができた。

そして、この3社から最終1社へ絞りこみをするのだが、これをどのようにして対応したのか、その比較は次章でお伝えしたい。

まとめ

今回は全6回の2回目として、北米でM&Aを成功させるために考えたことを時系列に沿って紹介した。次の記事では、3社をどのように比較して1社を選択し、そしてM&Aの成約に結びつけたかについて、事業シナジー効果や戦略の視点から説明したい。

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楠山健一郎

国際基督教大学卒。シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターを経て株式会社プリンシプル設立。

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