はじめに
緊急事態宣言が5月25日に解除されてから2ヶ月以上経ちましたが、新型コロナウイルスを巡る状況は解消されることはなく、日に日に厳しさを増しています。このブログを書いている8月7日現在、新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数は1,600人を超え、過去最多となりました。来週からお盆がはじまりますが、「帰省」を巡る政府や地方自治体の方針は必ずしも一枚岩ではなく、私たちは、このお盆期間中に帰るべきか帰らないべきかを、自分達で判断しなくてはいけない状況となっています。
政府には、もう少し力強いメッセージを打ち出して欲しいところではありますが、ある意味では仕方がないところもあると思います。新型コロナウイルスは新しい感染症であり、まだまだ分かっていないことも多く、予防法(ワクチンなど)や治療法(治療薬など)が確立している訳ではありません。現在世界中の研究者が日々研究を進めており、多くのことが分かってきてはいますが、それでも全容が解明され、予防法や治療法が確立するには、年単位の時間が必要になるのではと思います。そうなると、政府や自治体も、企業や組織も、そして私たち一人ひとりも、不完全で不確実な情報をもとに、何が正解なのかが分からないまま、それでもより「正しい」と思われる行動を選択し、判断し、実行していなかくてはなりません。
人間誰しも、「不安定」で「不確実」な状態に身を置かれることには、ストレスがあると思います。できれば確実で「正しい」ことを実行したいし、できるだけ「安全な」場所に身を置きたいと思うのは、当然のことです。
まして、このような「不安定」で「不確実」な状態が長期間続くことは、多くの人にとって過度なストレスになっていると思います。一方で、そのストレスが極限に達すると、それは「不寛容」という形の刃となって、他者を傷つけることにもなりかねません。私たちは、この「不確実」で「不安定」な状態が生みだすストレスに、うまく対処していかなくてはいけないのだと思います。
「不安定」で「不確実」な世界でストレスに対処していくには、2つのことが役に立つと思います。1つは、判断や行動をするにあたって、自分の中で「基本的な原則(=プリンシプル)」を確立しておくこと。そしてもう1つは、「小さな試行と検証」を繰り返し、少しずつ、でも着実に、物事を前へ進めることです。今回の働き方ブログでは、この2つについての私なりの考えと、プリンシプルにおける最近の取組をご紹介します。
「必要性/重要性」と「緊急性」、そして「安全性」
「自分が何をすべきか」や「どうすべきか」を判断するには、その判断にあたっての基準(=判断基準。クライテリア)が必要となります。一般によく使用される基準は、「必要性/重要性」と「緊急性」であると思います。例えば、最近良く聞く「不要不急」という言葉は、自分が行おうとする行動が「必要/重要」であるか、「急ぎ」であるか(=緊急性があるか)を判断し、「重要で緊急なもの」以外は自粛するよう、私たちに求めています。スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』で紹介されている「第二領域(=緊急ではないが重要な領域)」という言葉も、「必要性/重要性」と「緊急性」からなる四象限(マトリックス)にちなんだもので、この2つの判断基準は、一般的によく使われる基準であると思います。
余談ですが、私はこの「不要不急」という言葉は、あまり好きではありません。「不要不急」な旅行、「不要不急」な外出、時には「不要不急」な「行動」すべてを自粛するように求められますが、すべてのことは、必ずしも「必要」と「不要」に、「緊急」とそうでないものに、明確に分けられる訳ではないと思います。また、重要でも緊急でもない「無駄」と思えるものを許容できる心の「ゆとり」や社会の「ゆとり」にこそ、文化や文明の「意味」や「意義」があるのではないかと、私は考えます。
話がややそれましたが、新型コロナウイルスの脅威や不安と共存していかなくてはならないwithコロナの時代においては、この「必要性/重要性」と「緊急性」に加え、もう1つの判断基準を意識しなくてはいけなくなりました。それは「安全性」です。私たちは、自分がこれからなそうとする行動について、自分が感染するリスクや、他人に感染させるリスクを、常に意識しなくてはいけなくなりました。
一次情報をもとに「安全性」を判断する
新型コロナウイルスは「感染症」である以上、その基本的な原則は
- 自分が感染症にかからない
- 他人に感染症を移さない
- 感染したとして、重症化させない
ことです。この3つが守れる、あるいはこの3つのリスクを抑えられる対策が実施できるのであれば、多くのことを自粛する必要はないと考えます。ではこのリスクは、どのように判断すれば良いのでしょうか。そこで重要となるのは、やはり政府や自治体、研究機関が発出する「一次情報」であると思います。
自分が感染症にかからない、または他人に感染症をうつさないための方法は、以前よりだいぶ詳しく分かってきました。首相官邸の「新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~」のページでは、新型コロナウイルスの感染経路と、感染しないための対策について、以下のように説明しています。
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どうやって感染するの?
現時点では、飛沫感染(ひまつかんせん)と接触感染の2つが考えられます。
(1)飛沫感染
感染者の飛沫(くしゃみ、咳(せき)、つば など)と一緒にウイルスが放出され、他者がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。
※感染を注意すべき場面:屋内などで、お互いの距離が十分に確保できない状況で一定時間を過ごすとき
(2)接触感染
感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、自らの手で周りの物に触れると感染者のウイルスが付きます。未感染者がその部分に接触すると感染者のウイルスが未感染者の手に付着し、感染者に直接接触しなくても感染します。
※感染場所の例:電車やバスのつり革、ドアノブ、エスカレーターの手すり、スイッチなど
新型コロナウイルスに感染しないようにするために
感染経路の中心は飛沫感染及び接触感染です。
人と人との距離をとること(Social distancing; 社会的距離)、外出時はマスクを着用する、家の中でも咳エチケットを心がける、さらに家やオフィスの換気を十分にする、十分な睡眠などで自己の健康管理をしっかりする等で、自己のみならず、他人への感染を回避するとともに、他人に感染させないように徹底することが必要です。
また、閉鎖空間において近距離で多くの人と会話する等の一定の環境下であれば、咳やくしゃみ等の症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされています。無症状の者からの感染の可能性も指摘されており、油断は禁物です。
これらの状況を踏まえ、「3つの密(密閉・密集・密接)」の回避、マスクの着用、石けんによる手洗いや手指消毒用アルコールによる消毒や咳エチケットの励行などをお願いします。
首相官邸「新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~」より
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「3つの蜜」も、社会的距離(ソーシャルディスタンス)も、換気も、マスクも、自分の飛沫(つばなど)を飛ばないようにし、他人の飛沫(つばなど)を吸い込まないようにするための対策といえます。そういう意味では、例えば誰もいない真夜中のグランドを1人でジョギングしたりするときは、マスクの着用は必要ではありませんし、「会話」も「食事」もなく、「換気」も十分な交通手段(電車)で移動することなどは、感染のリスクは低いと考えられます。厚生労働省のページでも、熱中症のリスクを考慮して、「屋外で人と十分な距離(2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう。」と明言しています。このほか、現在重症化しやすいのは、高齢者の方とか、持病(糖尿病など)のある方などというのが分かってきていますから、そのような方と接するときは特に注意する、ということが求められると思います。
withコロナ時代だからこそ心がけたい5つのこと
「必要性」や「緊急性」は、ある程度は当事者である自分自身で判断することはできるでしょうが、「安全性」の判断には、専門的な知識が必要となります。まして、新型コロナウイルスは新しい感染症で、専門家の間でも意見が分かれることもあります。そのような状況において、安全性を判断するために重要なことは、以下のようなことではないかと思います。
- できるだけ一次情報にあたり、より「確からしい」情報を収集するように努める
- 「絶対大丈夫」であるとか「絶対にやっちゃいけない」などの思い込みはもたないようにする
- 自分と他人とで「安全性」の判断が分かれた場合は、感情的にならず、冷静にそれぞれの考えを交換しあう
- 「他人」に判断を委ねるのではなく、「必要性/重要性」と「緊急性」に「安全性」も加味して、「自分」で判断するよう心がける
- たとえ「意図せぬ結果」が生じたとしても、他人のせいにするのではなく、ありのままを受け入れ、次に活かす
これら5つをすべて実施するのは難しいとは思いますが、不確かな状況の中で、ただやみくもに行動していくよりは、ストレスもないのではないかと思います。そしてまた、自分の判断の根拠をある程度明確にしていけば、後から行動を振り返り、次に活かすこともできるのではないかと私は考えます。
なお、一次情報については、「緊急事態宣言が発出される今、大事なこと」でも取り上げていますので、参考にしていただければと思います。
小さな試行と検証の繰り返し
新型コロナウイルスは、ビジネスにおいても、「不確実」で「不安定」な状況を作りだしています。今までのセオリーが通じず、今後の予測も立てられず、何が正解なのかも分からない中でも、私たちは歩みをとめるわけにはいきません。であるのならば、色々なことにチャレンジして、検証して、改善が必要なら改善し、また新たな試行にチャレンジする、そんな一連の行動を愚直に繰り返していくことが、求められるのではないかと思います。
withコロナ時代におけるプリンシプルとしての大きなチャレンジは、先に実施された大型オンラインイベント「The Principle Week」で、その開催経緯は、代表取締役の楠山がこちらのブログで紹介しています。このブログ記事では、それ以外のプリンシプルにおける最近の取組を、簡単にですが紹介していきたいと思います。
リモート訪問
4月と5月に1回ずつ、家庭訪問のように社員のもとにオンラインで訪問し、心身の健康チェックやリモートワークが長引き困っていることはないかを確認し、また、雑談をすることで気持ちを整えてもらう目的で実施しました。5分から15分程度のオンラインでのコミュニケーションでしたが、次に紹介する改善施策につなげることができました。
ディスプレイを自宅に発送
ノートPCを使用していてディスプレイがなく業務のパフォーマンスが上がらないという要望を受け 、希望者には オフィスからモニターを自宅に配送しました。
通信費補助を増額
自宅のwifiの契約をアップグレードしたり、モバイルのテザリング使用が増加したり、通信費の負担が増えているという声を受け、「スマホ費用サポート制度」というもともとあった福利厚生制度を「通信費サポート制度」とし、月額15,000円までの補助を5月に導入させました。
技術的相談窓口の設置
技術的質問を、社内専門家の人に気軽にきけないというリモートワークにありがちなコミュニケーションの壁を下げるために、「山田良太(チーフテクノロジーオフィサー)オープンアワー」という時間を全社カレンダーに設定し、オンラインで相談しやすい環境をつくりました。
ボイスチャットツールの導入
オフィスにいる時と同様に、気軽に話しかけられるよう「ボイスチャット」を全社で使用開始しました。「ちょっといいですか?」と気軽に質問や確認作業が部署を越えてしやすくなり、業務の効率性があがったのとともに、リアルに代わりバーチャルで人の交流が増えコミュニケーション問題が大きく改善されました。
オンラインランチ会
プリンシプルでは、会社が一人1,500円までランチ代を支給するランチ会(毎月グループメンバーをPythonで組分けするシャッフルランチ)を実施していましたが、それをオンラインでも行いました。コミュニケーション強化の目的だけでなく、テイクアウトやデリバリーでランチを各自用意することを必須条件として、コロナ禍における飲食業を支援することも目的としました。
グループ分けのツールは、Zoomのブレイクアウトセッションを使い、10分ごとにシャッフルすることで多くの人とコミュニケーションがとれるように工夫しました。終了時間後も多くの人がZoomに残り雑談をしていましたので、終わり時間をきっちりと締めないことでコミュニケーションが生まれ効果的です。
さらにランチ会については、バージョンが増えていきました。
- 女子ランチ会
- 犬と一緒のランチ会
- ストレングスファインダー強み※別ランチ会
※ドン・クリフトンが開発したテストを受検すると判別される個人の資質的強み。パフォーマンスを高め組織を強くする目的で使用されている。
これらランチ会の取組の詳細は、「With / After コロナもリモートワーク オンライン会社イベント」で詳しく解説しています。
朝会後の5分間ストレッチ+雑談
社員から肩こり疲労の声が多かったことから、朝会直後にストレッチをしています。もともと雑談タイムを設けていたのですが、同時に身体をほぐすことで、よりリラックスしたコミュニケーションが生まれています。
マスクを自宅に発送
マスクの在庫がなく外に出かける時不安という社員には、会社に眠っていた在庫マスクを一人5枚ずつですが、自宅に発送しました。
朝活
毎朝8:00〜9:00にZoomに有志が集まり、カメラはonにしたままで、もくもくと各自好きな学習を行います。入室時の挨拶と本日取り組んだことの共有を最後にするだけです。これに参加することで、早起きが習慣になったり、第二領域(緊急ではないが重要なこと)にしっかりと時間をかけられるようになったという良い声があがっています。
おわりに
残念ながら、新型コロナウイルスとの戦いは長期化しそうで、私たちはこの「不確実」で「不安定」な状態から、そう簡単には抜け出せそうにありません。
このような状況でも、ストレスをできるだけためこまずに、また他者に対して「寛容」であるためにも、自分や組織の中で確たる判断基準や行動原則を持ち、それらに基づいて行動し、試行と検証を繰り返していくことが重要であると思います。
そしてその個人や組織の行動の積み重ねが、社会的にも大きな経験や財産となり、きっといつの日か、この状況を世界的に、社会的に終息させることを、私は信じます。