はじめに
自分が担当しているウェブサイトの日々のアクセス数(Google Analytics上のセッション数や、Search Console上のクリック数)の変化は、とても気になるものだと思います。ましてSEOの担当者なら、自然検索(Organic)のアクセス数の変化には、毎日神経を尖らせていることでしょう。では、そんなアクセス数が急に減少し始めたとき、担当者は何をすれば良いでしょうか。
「先日Googleのコアアルゴリズムアップデートがあったから、きっとそれで順位が下落したに違いない」「こないだ実装した改修内容が、うまくいかなかったのかもしれない」「最近広告出稿を強化しているので、それが悪影響を与えている可能性もある・・・」
心の中にいろいろな不安や焦りが沸き起こると思いますが、そんなときこそ、冷静になって客観的に現象を分析し、原因を推定することが重要です。具体的には、以下のステップが必要になると私は考えます
1)前提を確認し、問題を明確にする
そもそも正しく測定できているかを確認します。また、昨年同時期の傾向と比較したりすることで、シーズナリティの影響も考慮しながら、問題を明確にします。
2)減少している箇所を特定する
- アクセスの減少が、いったい「どこ」で減少しているのかを特定します。Google Analyticsのデータであれば、
- チャネル(Organic、Paid Searchなど)
- メディア(Google、Yahoo!、Bingなど)
- デバイス(PC、SP、タブレット)
- ごとに、変動に差が無いかを確認します。またSearch Consoleのデータであれば、
- URL(ディレクトリやページグループなど)
- 検索キーワード
によって変動の差が無いかどうか確認します。
3)内外の変化を特定する
- 減少の「場所」が特定できたら、次に最近の「変化」を特定します。いつからアクセスが減少したのかを明確にした上で、
- サイト側の変動要因(改修など)
- 外部環境の変化(コアアルゴリズムアップデートなど)
が、その時期の近辺でなかったかを確認します。
4)原因を推定する
減少の「場所」と「時期」が明確になってきたら、次にその原因を推定します。原因の推定には、アクセス数の他に変化している要素がないかを確認するのがヒントとなります。Search Consoleで表示回数や平均掲載順位などの各指標の内容を確認し、他に変化している項目を探りながら、何がその変化をもたらしたのか、原因を冷静に分析します。
5)対策を講じて、可能性を1つずつつぶしていく
1)~4)のステップを踏んで、原因が推定できたなら、その推定した原因に対して対策を実施して、可能性を1つ1つ潰していくことで、状況の改善に取り組みます。
次節からは、それぞれのステップについて、具体的に説明していきます。
1.前提を確認し、問題を明確にする
「Google Analyticsで最近のセッション数をみると、アクセスが減少しているように見える・・・」
ウェブサイトの担当者やSEOの担当者なら、そんな状況に遭遇したら不安に駆られてしまいますよね。実装した施策がうまくいかなかったのか、先日のコアアルゴリズムアップデートの影響を受けてしまったのか、などなど、色々と心配になると思いますが、そんな時はまず第一に、そもそもGoogle Analyticsで正しく測定ができているのか、前提を確認することが大事です。
「正しく測定できていないなんて、そんなことあるの?」
そう思った人もいると思いますが、実はつい最近、2019年12月16日には、Google Analyticsのデータが正しく表示されないトラブルがありました。
参考:
https://www.google.com/appsstatus#hl=en&v=issue&sid=18&iid=ee0c031909bd430a733bb33b69ba8350
こちらに、以下の記述があります。
「We’re investigating reports of an issue with Google Analytics. We will provide more information shortly.Google Analytics may show incorrect data for 2019-12-16.」
現在(2020年1月)ではもう回復していますが、当時は、Google Analyticsの画面上で急にサイトのアクセスが減少しているように見えたため、私もいくつかのお客様から問い合わせをいただきました。このようなことは稀かもしれませんが、アクセスが減少しているかもと思った時、まずは前提を確認し、そもそも正しく測定ができていることを確認することは、大事なことです。
Google Analytics(GA)やGoogle Tag Manager(GTM)の設定を確認する
また、Google Analyticsに不具合がなかったとしても、サイト側で、何らかの理由でGoogle Analyticsのタグが外れてしまったり、あるいはGoogle Tag Managerの設定変更が理由で、ビーコンが飛ばなくなったりすることもあります。例えばサイトのリニューアルがあった際に、Google Analytics上のデータがおかしくなったと感じたときは、そもそもの設定がしっかりされているかを確認することが大事です。
そのような際に役立つのが、Google Search Console(GSC)との比較です。Search Consoleのクリック数の値は、Google AnalyticsにおけるGoogleからのOrganic流入セッション数と、ほぼ同じ傾向になるはずですが、その値に乖離が生まれていたり、Search Consoleのクリック数に比べてGoogle Analyticsのセッション数が極端に少ない場合などは、タグが設置されているかなどを確認した方が良いでしょう。
シーズナリティも考慮し「問題」を明確にする
正しく測定はできているにもかかわらず、アクセスが減少しているように見える。その場合は、どこで減少が起きているのか、何故減少しているのかの調査を開始することになりますが、そんなときにまず明確にしたいのは、いったい何が「問題」であるのかです。
例えば、「2019年12月に比べて2020年1月のアクセス数が落ちた」という場合、先月と比べて傾向を見ることも大事ですが、昨年と比べて傾向をみることも大事となります。例として、以下のような場合を考えてみます。
項目 | 2019年12月 | 2020年1月 |
---|---|---|
セッション数 | 100,000 | 80,000 |
昨年実績 | 120,000 | 90,000 |
確かに、2019年12月より2020年1月の方がセッション数は落ちていますが、昨年も同じような傾向があるのが分かります。このような場合、この表に先月比(MoM)と昨年比(YoY)を追加してみると、傾向がより分かりやすくなります。
項目 | 2019年12月 | 2020年1月 | 先月比 |
---|---|---|---|
セッション数 | 100,000 | 80,000 | 80.0% |
昨年実績 | 120,000 | 90,000 | 75.0% |
昨年比 | 83.3% | 88.9% | – |
先月比と昨年比を加えてみると、2019年12月から2020年1月の下落幅は、昨年よりむしろ改善していることが分かります。こうしてみると、2020年1月のアクセス数の評価も変わってきます。
このように「アクセス数が落ちた」場合、いったい「何と比べて」落ちたのかを明確にすることは、その後の原因調査をする上で非常に大切になります。「先月と比べて」落ちたのか、「昨年と比べて」落ちたのか、そのどちらが問題で、いったい何を改善したいのか。原因調査をする際には、解決したい「問題」を明確にすることが、まずはとても大事となります。
2.減少している箇所を特定する
「測定も問題なくできているのに、昨年比でアクセス数が減少しており、これを改善させたい」。問題が明確化できたのなら、次にすべきことは、「どこで」減少が起きているかを明確にすることです。
一口に「アクセス数の減少」といっても、以下のように色々な場合がありえます。
- サイト全体でアクセスが落ち込んでいる<
→ Organicだけでなく、Paid Searchなどでもアクセスが減少している、などの場合は、会社名や商品名など「ブランドワード」の検索ボリューム自体が減少している可能性や、ウェブサイトがダウンしていた時期があった、増税により消費が冷え込んだ、などの内外の要因も視野にいれます。 - Organicでアクセスが減少しているが、広告からの流入はむしろ増えている
→ 広告出稿の強化により、会社名や商品名などの「ブランドワード」で検索した際の流入が、Organicから広告に流れた可能性があります。自然検索のクリック数と広告のクリック数を総合的に分析するトータルサーチカバレッジなどを活用して、原因の特定を進めます。 - スマートフォンからの流入は増えているが、PCからの流入が減少した
→ スマートフォンを使うユーザーが増えてきた、なども考えられますが、PCの検索結果画面特有の状況の変化が影響を与えている可能性もあります。 - Google、Yahoo!からの流入は一定だが、Bingからの流入が極端に減った
→ 特定の検索エンジンからのアクセスが減少した際は、その検索結果画面上で何らかの変化(順位の下落など)があった可能性があります。 - 特定のページグループ(例えば商品ページ)の流入が極端に減った
→ そのページグループのインデックス数が変化して、そもそも検索結果画面上に表示される絶対数が減った、などの可能性が考えられます - 特定の検索クエリからの流入が著しく減った
→ キーワードの詰め込みなどによる、ペナルティの可能性を考えます
このような際は、例えば下表のような整理をすることで、減少がどこで起きているのかを明確にするのがよいでしょう。
項目 | 2019年1月 | 2020年1月 | 昨年比 | |
---|---|---|---|---|
サイト全体のセッション数 | 90,000 | 80,000 | 89% | |
デバイス | PCからの流入 | 50,000 | 40,000 | 80% |
SPからの流入 | 40,000 | 40,000 | 100% | |
媒体 | Googleからの流入 | 50,000 | 45,000 | 90% |
Yahoo!からの流入 | 35,000 | 30,000 | 85% | |
Bingからの流入 | 5,000 | 5,000 | 100% | |
ページグループ | 商品ページへの流入 | 30,000 | 20,000 | 67% |
一覧ページへの流入 | 20,000 | 15,000 | 75% | |
特集ページへの流入 | 40,000 | 45,000 | 112% |
- この表の場合ですと
- PCからの流入
- GoogleとYahoo!からの流入
- 商品ページへの流入
が、著しく減っていることが分かり、問題がさらに明確になります。
3.内外の変化を特定する
問題が明確になり、問題が起きている箇所(=アクセスが落ち込んでいる箇所)も明確になれば、次はそれが「いつから」起きているのかを特定します。月単位で見ているデータを、週単位、日単位でみることで、その問題が「いつから」生じているのか、傾向を掴むことができると思います。
そしてその近辺で、サイトの内外で、どのような動きがあったかを、下表のように列挙していきます。
ウェブサイトに関わる動き | 外部の動き | |
---|---|---|
アクセス下落前 | サイトマップの新規作成と送信 商品ページのリニューアル 新規特集ページの追加 |
消費税増税 Googleコアアルゴリズムアップデート |
アクセス下落後 | トップページの改修 | Google検索結果画面の変化 |
このように整理していくことで、アクセスの減少に影響を与えたであろう事象を絞り込んでいきます。
4.原因を推定する
アクセスが減少した場所と時期が特定できたとして、それを解消していくためには、原因を推定し、対策を講じていく必要があります。そのためには、検索の仕組みを念頭においた上で、「セッション数」や「クリック数」の他に、アクセスの下落前後で変化している要素がないかを確認するのが良いでしょう。
- 主な確認ポイント:
- 検索ボリュームに変化はないか(Googleトレンドなどを活用)
- 表示回数に変化はないか
- CTRに変化はないか
- 掲載順位に変化はないか
- クロール数に変化はないか
- エラーの急増など、インデックスカバレッジの状況に変化はないか
- ペナルティを受けてはいないか
そして「変化」が起きている項目が明確になったのなら、その変化が何故起こったのかを考えることで、原因をどんどんと推定していきます。クリック数だけでなく、表示回数も減少していることが分かったのなら、そもそものインデックス数が減少している可能性を考えます。カバレッジ状況を見て、有効なURL数が急激に減少していることが分かったのなら、それがさらに何故起こったのか(=ページが低品質と評価されたからなのか、サイト内の内部リンクが減少していないか)などを考えます。
そうしていくことで、その現象を改善するための「打ち手」も浮かび上がってくると思います。下表は、何を改善したいかに応じた、施策の方向性の例となります。
何を改善したいか | 施策の方向性 |
---|---|
検出確率を高める | サイトマップの作成と送信 内部リンクの整備 |
クロール数を増やす | サーバーの反応速度やページの読み込み速度の改善 クロールに適したサイト構造の構築 |
カバレッジを改善する | クロールエラーの解消 低品質、重複コンテンツへの対処 不要なページのクロールの抑制 |
評価を高める | コンテンツの改善 内部リンクの整備 |
表示回数を増やす | 有効なURL数の増加 掲載順位の向上(1ページ目内を目指す) サイトリンク表示を狙う |
クリックされやすくする | リッチリザルトを狙う TDの改善 SERPs上での広告とのバランスの調整 |
5.対策をうち、可能性を1つずつつぶしていく
1~4のステップを踏んで、原因が推定できたなら、その推定した原因に対して改善策を実施して、減少をもたらした可能性を1つ1つ潰していくことで、状況の改善に取り組みます。
アクセス数の減少は、待っていれば状況が改善することもあるかもしれませんが、積極的に対策を講じなければ、いつまでたっても状況が改善しないこともよくあるものです。施策を実装するには、様々なリソースが必要であり、他部署との調整や交渉が必要となったり、簡単なことではありません。ですが1〜4のステップを通じて、ロジカルな分析ができているのであれば、様々な人と交渉して実装に向けた調整を行うことも、きっとやりやすくなるのではと思います。
最後に
以上、アクセスが減少した時に確認すべきポイントと必要なステップについて解説してきました。アクセスの減少に遭遇すると、担当者としては不安と焦りにかられ、何とか原因を見つけて対処したいと考えると思います。けれども減少の原因は、コアアルゴリズムアップデートやシーズナリティなど、自分にとってコントロール外のものの場合もあれば、最近改修した内容など、コントロール可能で解決可能なものが原因の可能性もあります。思い込みを持たずに、客観的かつ網羅的にチェックした上で、仮説を立て検証していくのが大事です。
このブログが、アクセスの減少に悩むウェブサイトの担当者の一助となれば幸いです。