更新:公正取引委員会からプレスリリース
2024/4/22、公正取引委員会から発表があり、本件についての行政処分がアナウンスされています。
本記事で紹介している事象のことを、公正取引委員会資料では「モバイル・シンジケーション取引」に関する問題としており、今後3年間に渡る監視を行って解決していくようです。
なお本記事の内容が示すものと公正取引委員会の見解が合致しているか、公正取引委員会にも電話で裏どりできましたので、業界向けの記事としてお読みいただければと思います。
「公正取引委員会が調査開始」の報道
2024/4/16の朝刊を飾ったこちらのニュースですが、大手メディアの記事を見てもあまりピンとこなかった方もいらっしゃるかと思います。
弊社でも何名かでこの記事について読み込み、LINEヤフーの検索広告のネットワークパートナーに関連するニュースであることがわかりましたので、現時点の見立てについて業界目線で解説したいと思います。
おさらい:Yahoo! Japanの検索はGoogleの検索エンジン
Yahoo! Japanの検索はGoogleの検索エンジン技術を利用しています。公正取引委員会では、LINEヤフーがGoogleの検索エンジンを採用したときからさまざまな調査を行っており、「LINEヤフーは契約更新時、常にMicrosoftの検索エンジン(Bing)とGoogleの検索エンジンを比較検討しているため問題ないとする」といった見解を示してきました。
ただ、Googleの本拠地でもある米国でもGoogleはBingに比べて圧倒的なシェアを誇り、かつ検索システムの移行にはそれなりのコストがかかるため、LINEヤフーは簡単に乗り換えができる状態ではなかったようです。
※参考:ヤフー株式会社がグーグル・インクから検索エンジン等の 技術提供を受けることについて (公正取引委員会 公表資料)
つまり、GoogleはLINEヤフーに対し、取引上は優位な立場にあった、という状況が続いていたと推測されます。
検索広告のネットワークパートナーに関する問題が焦点
LINEヤフーは検索結果ページでYahoo!広告の1つである検索広告を提供しています。
ご存知の通りですが、Yahoo! Japanでキーワードを検索すると、検索結果ページ上部には「スポンサー」のタグづけがされたページのリンクが表示されます。
広告主は、Yahoo!広告の管理画面からキーワードへの入札を行い、この広告を表示させているわけです。
検索広告のネットワークパートナーは7社(2022年11月現在)
実はこのYahoo!広告で入札した検索広告は、LINEヤフーの検索広告のネットワークパートナーとして提携しているポータルサイトにも表示されます。
具体的には以下7社のキーワード検索結果で広告が表示されます。
- 朝日新聞デジタル
- Bing(ビング)
- Excite(エキサイト)
- Fresh eye(フレッシュアイ)
- My Cloud(マイクラウド)
- Sleipnir(スレイプニル)
- Vector(ベクター)
https://www.lycbiz.com/jp/partner/adnetwork/yahoo/ より引用
LINEヤフーはモバイルの検索結果で広告を表示してはいけない
各社の報道を見る限り、「GoogleはLINEヤフーに対し、スマートフォン向けに広告の配信をやめるよう要求した」とあります。
公正取引委員会の概要資料ではこのような取引を「シンジケーション取引」と呼び、中でもスマートフォン向けのものについては「モバイル・シンジケーション取引」としています。
実際に上記ウェブサイトのデスクトップ版とスマートフォン版の検索結果ページを比較してみましょう。
上記はどちらも同じ検索キーワード「iPhone」に関する検索結果ページですが、デスクトップ版では「Ads by Yahoo! JAPAN」という枠が表示されているのに対し、スマートフォン版ではこの枠がなくなっています。
※代わりにディスプレイ広告枠が表示されていますが、これはGoogle広告の広告枠です。
なるほど、確かに、LINEヤフーはGoogleの要求通り、スマートフォン版の検索広告のネットワークパートナー枠では、広告配信をしていないようです。
GoogleがYahoo!広告から配信面を奪っている可能性
これの何が問題か、というポイントで考えると、以下の可能性がありそうです。
- スマートフォン版の検索結果画面で、Yahoo!広告ではなくGoogle広告の広告のみが表示されることで、Googleが利益を得る可能性
- ポータルサイトがLINEヤフーとではなく、Googleと契約して検索連動型広告を提供する可能性
検索広告のネットワークパートナーである、朝日新聞デジタルの検索結果画面で見た通り、Yahoo!広告の広告はスマートフォン版では表示されないため、代わりに表示されたGoogle広告のディスプレイ枠がありました。
検索連動ではないため、関連性は低くなると思われますが、それでもまったく表示されないよりは表示されるGoogle広告の方がクリックが発生するでしょう。
またYahoo!広告の枠がスマートフォン版のポータルサイトで表示できないということは、ポータルサイトが検索連動型広告のクリックで得られるはずの収益が得られなくなる、ということを示します。
結果、上記のような別の広告枠をポータルサイトが用意する、もしくはGoogleと直接契約すれば良いという判断をする可能性も考えられ、この観点でLINEヤフーはGoogleから不当に収益を奪われた、と考えることもできそうです。
まとめ:広告成果への影響は少ない可能性も
公正取引委員会からは正式な調査結果など出てきていないようですので、本記事はあくまでも速報的に解説を試みたもので、事実関係の確認や判断についても追っていきたいと思います。
一方、広告の成果で考えると、検索広告のネットワークパートナー経由のクリック数はそこまで大きな割合を占めるわけではありません。
参考値として軒並み10%未満の影響度で、キーワードによってはGoogle広告で50%近くを占めるものもあるようですが、表示回数が多い割にクリック率は低い傾向があり(ディスプレイ広告のような成果イメージ)、結果的に消化予算比でマイナーになる、というデータもあります。
Yahoo!広告の広告管理ツールで「分割 > 広告を表示する検索画面」を選択すれば、検索広告のネットワークパートナーでどの程度の表示・クリックが発生したかを確認できますので、気になる場合は自社のデータも確認するのが良いでしょう。
https://ads-help.yahoo-net.jp/s/article/H000045061?language=ja より引用