2024年7月22日に、Google社から「Google ChromeにおけるサードパーティーCookie廃止の方針転換」がアナウンスされました(A new path for Privacy Sandbox on the web)。

本記事では、この方針転換を我々マーケターがどのように受け止めれば良いか、また今後どのような変化が起こるかを解説・推測し、今後の取り組みについて説明したいと思います。

これまでのプライバシー保護に対する動き

2017年9月にApple社がSafariにおいてサードパーティーCookieの制限を開始したことをきっかけに、プライバシー保護の動きが始まりました。この背景には、リマーケティング広告を中心とした広告手法の普及に対して、「プライバシー保護」を重視するApple社の考え方があります。

Apple社はCookieに依存した収益構造ではないため、SafariでのサードパーティCookieの完全ブロックは順調に進み、2020年3月には完全にブロックされました。

一方でGoogle社は、Web広告が収益の柱であることとWeb広告の業界を牽引している立場であることから、サードパーティCookieの完全ブロックを押し切ることはできず、代替機能の準備のために難航していました(筆者は「Google社がサードパーティCookieの廃止を強行していた場合、Web広告の市場が崩壊に向かっていたのではないか」と推測しています)。

実際、

  • 2020年1月:2年以内(2022年末)までにサードパーティーCookieを廃止すると発表
  • 2021年6月:計画を2023年後半に延期(1回目の延期)
  • 2022年7月:計画を2024年後半に変更し、段階的廃止を発表(2回目の延期)
  • 2024年4月:計画を2025年前半に延期(3回目の延期)

のように、当初の計画が発表されたあと、計3回の延期が行われてきました。

これまでの4年半のキーポイントは、英国の競争・市場庁であるCMA(Competition & Markets Authority)です。CMAは、この一連の動きにより、Googleの広告製品の競争力がさらに高まり広告市場を支配してしまう(=競争原理が働きにくくなる)ことを懸念し、Google社の動きを評価しています。

簡単に言うと、CMAはプライバシー保護が主要な関心ごとではなく、「デジタル広告における競争とイノベーションを維持すること」が最大の関心ごとと言えます。

今回の発表内容

今回、「Google Chromeで進めていたサードパーティCookie廃止の計画」を撤回することが発表されました。今までは「延期」でしたが、今回の発表は延期ではなく「撤回」となり、今までの判断より大きな方向転換となりました。

具体的な発表内容のポイントを整理すると、以下の4点です。

  • プライバシーサンドボックスAPI(Google社が進めていたサードパーティCookieの役割を代替する機能)は一定の成果を達成できそうだが、これに移行するにはさまざまな障壁が存在する。
  • プライバシーサンドボックスAPIに移行する障壁をクリアすることは難しく、サードパーティCookie廃止の取り組みを撤回する。
  • プライバシー保護のために、「ユーザー自身によるオプトイン・オプトアウトを使ったサードパーティCookieのコントロール」「シークレットモードにおける更なるプライバシー保護」といった機能を導入する。
  • サードパーティCookie廃止は撤回となったが、今後もプライバシーサンドボックスAPIに対する投資を継続する。

撤回の背景には、サードパーティCookieをプライバシーサンドボックスAPIに代替すると、Google社の広告管理プラットフォームであるGoogle Ad Manager(「Google広告」とは別プロダクトで、主に広告の配信枠を持つサイトが利用するプロダクト)の優位性が高まり、競争原理が維持できないことが理由とも言われています。

また、サードパーティーCookie廃止の計画は撤回されましたが、「プライバシー保護」を軽視しているわけではなく、「ユーザー自身によるオプトイン・オプトアウトを使ったサードパーティCookieのコントロール」「シークレットモードにおける更なるプライバシー保護」という代替手段が取られることとなります。

我々は今後どうするべきか

これまでのサードパーティーCookie廃止に対する取り組み

サードパーティーCookieの廃止はWeb広告における「ターゲティング」「コンバージョン測定」の2点に影響を与えてきました。

この影響を最小限にするため、

  • ターゲティングでは「広告主のファーストパーティーデータを用いたターゲットリスト作成」(カスタマーマッチなど)
  • コンバージョン測定では「広告主のファーストパーティーデータを使った計測」(コンバージョンAPI、拡張コンバージョンなど)

といったCookieレス・ソリューションが利用されてきました。どちらの手段も「広告主自身が保有するファーストパーティーデータ」が重要な鍵を握っています。

とくに、コンバージョン測定については、パフォーマンスに直結することもあり、この数年で多くの広告媒体社が導入したソリューションと言えます。下記は代表的な広告媒体社におけるコンバージョン測定のCookieレス・ソリューションです(広告媒体社ごとに名前は異なっていますが、実際の機能はどれも同じ)。

現在のブラウザ環境

今までは、一部のデバイスにおいて、ChromeのサードパーティCookieを廃止し検証を行っていました。今回のアナウンスを受けて、このような検証も中止するものと思われます。つまり、(今後ユーザー自身によるオプトイン・オプトアウト機能が導入される予定ですが)Google Chromeにおいては今までのようにサードパーティCookieが利用可能になります。

一方で、現在使われているブラウザはGoogle Chromeだけではありません。statcounterによると、日本のブラウザシェアは以下のようになっています。


https://gs.statcounter.com/ からグラフを作成

上位4ブラウザのシェア率とサードパーティーCookieの状況は以下のようになっています。

ブラウザ名 シェア率 サードパーティーCookieの状況
Google Chrome 56.46% 今回中止を発表
Safari 23.53% すでに廃止済み
Edge 12.95% 廃止の方向で準備中
Firefox 3.78% すでに廃止済み

 

今回のGoogle Chromeの発表を受けてEdgeがどのような判断を行うか現時点では不明ですが、Edgeでは2024年3月にサードパーティーCookieを廃止する発表をしており、現在一部のユーザーを対象にテストを行っています。

また、SafariとFirefoxにおいては、すでにサードパーティーCookieは廃止済みで、これらのブラウザシェアはすでに25%を超えています。

つまり、Google ChromeのサードパーティーCookieが復活したとしても、全体の4分の1はすでにサードパーティーCookieが使えない状況となります。また、モバイルデバイスのみに絞ると、Safariのブラウザシェアが49.36%となっており、すでにほぼ半分はサードパーティーCookieが利用できていません。

まとめると、Google ChromeのサードパーティーCookieの廃止がなくなったとはいえ、「全デバイスの4分の1(モバイルデバイスに限って言えば、2分の1)がすでにサードパーティーCookieが使えない状況となっている」ことが重要なポイントとなります。

今後どうなっていくか

今後のGoogle Chromeの動きは、

  • ユーザー自身によるオプトイン・オプトアウト機能の導入
  • サードパーティーCookie廃止に向けた投資は引き続き行う
  • シークレットモードのユーザーに対する追加のプライバシー機能の導入

がアナウンスされています。

一番注目しておくべきは1つ目の「ユーザー自身によるオプトイン・オプトアウト機能の導入」です。

この機能がどのような形で実装されるかは現時点では不明です。しかしながら、(ユーザーのプライバシーに対する意識の度合いに依存しますが)今までのようにサードパーティーCookieを使えない時代が来ることは確実と言えるでしょう。

つまり、ある日突然サードパーティーCookieが使えなくなることは免れましたが、サードパーティーCookieが減少し続ける流れは今後も続きます。

そのため、今までやってきたCookieレスへの取り組みがムダになることはなく、まだ取り組みが不十分な場合はCookieレスへの取り組みを進めることが推奨されます。

まとめ

Google ChromeにおけるサードパーティーCookie廃止の動きが大きな方向転換を迎えました。この方向転換自体はかなり大きなもので話題になりましたが、我々マーケターがどのような行動をとるべきか?については何も変わっておらず、愚直にCookieレスへの取り組みを引き続き行っていくことが重要となります。

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山田良太

テクノロジー開発室長。チーフテクノロジーマネージャー。10年以上のプログラミング経験を活かして、Webマーケティングのテクノロジー領域(APIを使ったシステム開発や、タグ実装など)を中心に取り組む。

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公開日:2024年06月

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