「デジタル市場競争会議」というのをご存知でしょうか?2020年9月から内閣が主催して定期的に行われている会議です。

今回はその中でどのような議論がなされており、我々デジタルマーケティングに携わる立場の人達にとってどのような影響がありそうなのか、直近の第4回の配布資料を元に紹介してみたいと思います。

デジタル市場競争会議の概要

デジタル市場競争会議は2019年9月に発足し、デジタル市場におけるルール整備について様々なことが話し合われている会議です。直近では、2020年6月に第4回会議が行われました。


会議資料など:デジタル市場競争会議|デジタル市場競争本部

参加メンバーは、議長を務める菅義偉官房長官を筆頭に、各領域の大臣に加え、AIで有名な東大の松尾教授など。錚々たるメンバーで「未来のデジタル市場競争がどうあるべきか」について議論しています。

この会議の中で話し合われたトピックから、すでに公正取引委員会におけるガイドラインが多く策定されています。たとえば、2020年3月に話題となった楽天市場における一律送料無料に対して公正取引委員会が立ち入り検査を行った案件についても、第1回の本会議における決議事項が元となっています。

ハンコ問題など世間をにぎわすニュースの印象からすると、国が進めるデジタル政策というと「どこか古臭く検討違いの内容が議論されているんじゃないか」という印象を抱くかもしれません。しかし各領域の専門家が集まって議論しているだけあり、専門的かつ骨太な議論がなされています。

第4回デジタル市場競争会議の内容

幅広い内容の配布資料

第4回で議論された内容は幅広く、92ページにもわたる配布資料「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」を元に議論がなされています。

この資料では、

  • デジタル広告市場の概況
  • DSP/SSPなど含めたアドプラットフォームの構造
  • 入札方式の仕組
  • 各市場における各種課題と対策の方針

が詳細に語られており、マーケター中級の方向けの学習資料としても活用できそうです。

会議の結論:今後の課題10項目

本議論の中の結論として、以下10項目の課題が上げられています。今後これらに対して今後国から何らかのルールやガイドラインが設けられる可能性があります。

  • 課題① デジタル広告市場における質に係る問題
  • 課題② 価格や取引内容などの不透明さ
  • 課題③ 第三者による到達指標等の測定
  • 課題④ データの利活用における課題
  • 課題⑤ PF事業者における利益相反
  • 課題⑥ ⼊札設計等における⾃社優遇
  • 課題⑦ PF事業者による⾃社メディアへのアクセス制限
  • 課題⑧ PF事業者によるシステム変更やルール変更
  • 課題⑨ 検索エンジンにおけるパラメータ
  • 課題⑩ パーソナル・データの取得・利⽤に係る懸念

それぞれの方針として、納得性が高く妥当なものから、「本当にここまで踏み込めるのか?」と思わせるような内容まで様々です。

影響の出る対象は大きく以下の3つに分けられます。

  • GAFAのようなメガプラットフォーマーに対する規制的な動きを意図するもの(課題②④⑤⑥⑦⑧⑨)
  • メガプラットフォーマーよりも小さな、広告主とメディアとの中間業者(アドテクベンダー等)に大きな影響が出るもの(課題①②③)
  • 事業者側も含めて業界全体のポリシーに影響を与えるもの(課題⑩)

基本はGAFAのようなメガプラットフォーマーにより市場が独占されることをけん制するような内容となっています。

10の課題に対する筆者の解説

以下では、第4回デジタル市場競争会議で挙げられた10の課題を、デジタルマーケティングに携わる筆者の目線で解説します。

ちなみに、議論全体の要旨は「デジタル広告市場の競争評価 中間報告(案)の概要およびデジタル市場競争に係る中間展望レポート(案)の概要」で3ページにまとめられています。こちらだけでも色々読み取れて参考になるかと思います。

課題①〜③ デジタル広告の透明性に関する課題

アドフラウド、ブランドセーフティといった、広告配信が適切な条件のもと正しく消費者にとどいているかの問題や、広告費が中間プラットフォーマー含めどういうお金の流れとなっているかが不透明な問題など、広告の役務対価の透明性に関する課題について挙げられています。

解決の方向性

詳細な配信先、価格、到達指標の情報を広告主が把握できるような仕組みを作ることをプラットフォーム事業者へ求める方向?

筆者の意見

言うことは分かるものの、既存の広告(テレビや新聞)でそれらが十分に成されているか、というと疑問です。そして現実的な解決策が見えにくいのではないでしょうか。

本格的にこれが進むこととなると、Google・Facebookといったプラットフォーマよりも、乗り入れているDSPの方が苦しいことになりそうな気がします。

マーケター視点で捉えてましたが、このあたりの問題についてはパブリッシャー(メディア側)からの問題提起も多いようで、全体的にもう少しデータの開示範囲が広がる、といったところが落としどころなのでしょうか。

課題④:データの利活用における課題

検索やSNSといった圧倒的な顧客接点量、また広告等のデータもプラットフォーマーにたまることにより、格差が是正されないという問題。

  • データ自体がプラットフォーマーのみに溜まる
  • そのデータを外部に提供していない
  • どのように活用されているかが不透明

これらが問題として挙げられています。

解決の方向性

欧米で取り入れられた方法にならい、(アンドロイドデバイス等の)検索サービスのデフォルト設定を自社サービスではなく選択できるようにしたり、オープンAPIの受け入れ、データ活用条件等の開示をプラットフォーマーに求める。

筆者の意見

こちらは、課題⑩と相反するところで様々な顧客データを自社内でユーザーの承認を得た形で使っていることをオープンにする、ということなので、打ち手としては「検索サービスのデフォルト設定を自社プラットフォームとさせない」というのは、ちょっと筋の悪い感じがします。

このあたりは、独占禁止法の所以でしょうか。

課題⑤〜⑦:複数の領域の立場で事業展開していることにおける課題(垂直統合)

Google などは事業者の広告効率を良くする立場とadsense でメディア側の収益を最大化する立場を両方持っているので、利益相反になる可能性があります。

また、自社サービスの広告や検索結果での表示など、も自社サービスの表示と検索エンジンとしての表示とか両立しているため、プラットフォームとしての公平性が担保されているかが不透明だ、ということが言われています。

解決の方向性

プラットフォーマーに対して、社内規律などの公平性に対する取り組みがきちんとなされているかを問い、対応状況をモニタリングしようとしています。

筆者の意見

欧州では、google に対して独占禁止法違反ということで数千億円の制裁金の支払が命じられています。そこで日本においても同じような動きが取れないか、その根拠となる法令の制定を検討していると見られます。

課題⑧〜⑨:PF事業者によるシステム変更やルール変更がブラックボックスであるという課題

広告の配信ロジックや検索アルゴリズムなどが変更される際に、事前告知や理由の開示が無いことが公平性に欠ける、ということを訴えています。また、検索エンジンのアルゴリズム変更が経営に対する大きなインパクトをもたらすということに対して1つの項目を割き議論しています。

解決の方向性

アルゴリズム変更の際変更内容の事前告知や理由の開示、交渉の余地を設けることを求めています。また、検索エンジンについては主要なパラメータについて開示したり国内相談窓口を設置することを求めるの対応策がアイデアとして挙がっているようです。

筆者の意見

欧州でも類似の議論は出ているようですが、SEOアルゴリズムの開示というのは現実的には難しいのではないでしょうか。昔と比べるとgoogle がサーチコンソールの機能アップデートやyoutube やブログへの情報発信を行っているのも、このあたりのガス抜きの意図もあるのかな、と思われます。

課題⑩:パーソナル・データの取得・利⽤に係る懸念

最後の項目は、個人データの活用に関する制限についてです。個人情報保護法の改正はすでに行われていますが、もう少し先を見据え、プライバシーポリシーや同意のコントロールについてを求めていくことになるのでしょうか。

プライバシーサンドボックスなどgoogleの動きに沿った内容ですが、日本国内のルールとしても、この方針になるのであれば、次の個人情報保護法改定では、欧米に合わせた基準になる可能性もありそうです。

まとめ

この記事では、内閣が進めるデジタル市場競争会議の概要と、そこで議論された内容をまとめました。まだ議論段階で確定情報を伝えるものではありませんが、今後のデジタルマーケティングに対して大きな影響を与える可能性もありそうです。

全体としてはなかなかボリュームのある資料ですが、時間がある際に目を通してみると勉強になることも多いかと思いますので、トライしてみてはいかがでしょうか?

第5回の会議の中でどのような方針となるのかも、注目ですね。

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中村研太

京都大学理学部卒。Webマーケティングスペシャリストとして、SEOや広告などのマーケティング施策の最適化による実績多数。

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