中国のオンラインマーケティングについてGoogleで検索すると、さまざまなツールを見つけることができます。もちろん『百度』は避けられないツールですが、他にも『ウェイボー(SNS)』、『WeChat(SNS)』、『生放送(インフルエンサー)』など、何から着手するのか悩ましいほど豊富にあります。
筆者は先日帰国する際、現地のインハウスマーケッターに話を聞くことができましたので、そこからのトピックを皆様にご共有します。特に中国市場に進出したいEC事業者様は、ぜひ今回の記事を参考にしてください。

中国のEC市場規模

インタビューの抜粋をご紹介する前に、中国のEC市場について簡単にご紹介します。

「ジェトロ世界貿易投資報告(2017年版)」(※注1)のデータをTableau(※注2)にてビジュアライズし、日本と中国のEC市場シェアを直観的に比較しました。
中国EC市場の発展は比較的遅れていましたが、2010~2016年に取引額が30倍ほどの伸長しました。2020年のB2C取引額は6500億ドルの見込みとなります。

アリババに支配された中国のEC市場

また、日本市場とは大きく違い、中国のEC市場は、ほぼ上位2社に支配されています。特にアリババだけではすでに43.50%の(半数に近い)市場を占めています。これほどの独占は他の国ではなかなか想像しにくいでしょう。(ちなみに、アメリカにてアマゾンは33.0%のEC市場シェアを占めています)

アリババがここまで独占している理由は、「アリババが中国の決済と物流の課題を乗り越えた」とジェトロが同レポートで見解を示しています。特にアリババ集団が開発した決済システム「アリペイ」(※注3)はクレジットカード化が遅れた中国にて、EC市場決済の主流になりました。中国EC市場発展の追い風に乗って、アリババは現在の地位につきました。
その独占が進んだ結果、大半の流入はアリババ系通販サイトに集中され、各企業は自社のECサイトを抱えても、集客には大きく困ることとなります。例えば、ブランド力を重視し、日本ではアマゾン、楽天に出店しないアップルでも、中国ではTMALL(アリババ集団の通販サイト)に出店しています(※注4)。
上記のような、中国独特な状況を頭に入れておくことで、以下の内容をよりスムースに理解できます。

インタビュー抜粋

以下、現地マーケッターの話を抜粋し、まとめてご紹介します。
今回インタビューしたのは、とある中国系大手家電メーカーのマーケティング全般を担当するAさんです。

1. Aさんに実際に使われている施策について聞いてみた

ある新製品を宣伝する際、Aさんが実際に使っているマーケティング戦略を聞いて、簡単に下記の表にてまとめています。

カテゴリ 施策 目的
広告 ① 百度PPC広告 ブランド好感度
広告 ② 百度ブランドトップバナー ブランド認知度
広告 ③ 通販サイト内トップバナー広告 ブランド認知度
SEO ④ Q&Aサイト、口コミサイト ブランド好感度
SEO ⑤ 目標消費者BBS ブランド認知度
ブランド好感度

施策ごとにAさんの話をまとめてご紹介いたします。

①百度PPC広告

百度PPC広告はGoogleやYahooのPPC広告と似てますが、Aさんが設計した戦略では、目的はコンバージョンではなく、ブランド好感度の向上になります。
その原因は大きく二つがあります。
・電気製品はそもそもPPCだけではコンバージョンにつながりにくい
・コンバージョン系のキーワードは大体通販サイトに独占されているため
その結果、効率を考慮したうえで、百度PPC広告の役割は主に消費者のニーズに合わせて、自社ブランドに関するポジティブなコンテンツを提供することになります。(※注5)

②百度ブランドトップバナー

百度トップバナーは、百度独特な広告形式です。ブランドキーワードが検索された場合、バナー形式にてより多くのブランド情報などを伝えることができます。ブランドの認知度を上げ、長期的かつ継続的にエンゲージメントするためのバナーになります。

例えば図3はあるスマホブランドのブランドトップバナーになります。自社サイト、ビデオコンテンツのほか、下方の切り替えメニューで、製品カテゴリ別に多くのコンテンツの共有が可能です。

③通販サイト内トップバナー広告

前述の通り、通販サイトは中国のEC市場をほぼ独占しているため、その対策は中国では必須になります。通販サイト内のトップバナー広告を出す理由として、Aさんは下記の2点を述べています。
・中国で、通販サイトではある程度検索エンジンの役割になっているため、一定の検索ボリューム(※注6)が確保されています。特にCPC形式のバナー広告を出す場合、無料でインプレッションを増やせます。
・消費者の過去の行動、属性情報にて、より精密に自社製品に興味を持ってくれそうな方へのリターゲティングが可能です。

④ Q&Aサイト、口コミサイト

自社サイトはもちろん、Q&Aサイトや口コミサイトのSEOも重視されます。原因は下記の2点になります。
・中国の消費者は広告よりも口コミや評判を重視しており、買い物する前に評判を調査することが多いです(※注7)。
・百度にて「質問系キーワード」を検索する際に、自然検索結果には関連口コミサイトやQ&A系のサイトが上位にランキングされてます。特に百度、知乎はどんな質問にでも出てくるサイトになります。

例えば図4のように、「どのブランドの炊飯器はいい」と検索した場合、1ページ目には口コミサイトとQ&Aサイトが並びます。
上記のような1ページ目に表示するための方法は下記の通りです。
・Q&Aサイト内にて、自社ブランドを提案した回答の最適化をする
・口コミサイトにて記事(特には競合比較記事など)を書いてもらう
・業界オピニオンリーダーにおすすめ宣伝をしてもらう
※注意:偽の情報を出すのではなく、製品情報を消費者がより信用できるチャネルにて情報を伝えることを想定しています。

⑤ 目標消費者掲示板・口コミサイト

④に似てますが、⑤はより目標顧客に近づき、ニーズが発生する前にブランドを認知してもらいます。
例えば炊飯器の場合、消費者は主婦がメインになりますので、主婦が集まる掲示板・口コミサイトにて無料トライアル体験者を募集し、その後、詳しい体験談記事を書いてもらいます。詳しければ詳しいほど、情報の信用度が高くなります。
このように、Aさんによる新製品の訴求方法は、日本とは異なるということが明確になりました。特に通販サイトへの対策および情報伝達チャネルの信頼性は注意すべきところです。

まとめ

まとめますと、中国でのEC市場にて通販サイトは特に強いため、自社ブランドへ集客は、やむを得ずブランド認知度や好感度向上を目的とします。また、消費者は口コミ重視のため、広告のほか、口コミやQ&Aサイトなど、信用性の高いチャネルから情報の共有も大事になります。

お気軽にご質問、ご相談ください

関連タグ

エリス(徐 萱)Eris Xu

早稲田大学商学研究科卒。DXコンサルタント。中・英・日本語対応。データ解析エンジニアとして、データ精緻化を担当後、現在はBIコンサルタントとして企業のDX支援を行う。

関連ブログ