第1回の記事では、山口周さんの「人生の経営戦略」のp.55に掲載されている図をもとに、「時間資本が人的資本に転換しない、あるいは転換効率が悪い仕事」はキャリアが行き詰まりやすい「スジの悪い仕事」だと定義しました。また、私自身のキャリアを振り返り、主観的な視点ではありますが、仕事の「スジの良さ」に関する考察も紹介しました。

続く第2回の記事では、「スジの良い仕事」かどうかを判断する軸として、「時間資本が効率よく人的資本として蓄積されること」「蓄積した人的資本が社会資本に転換されること」の2つをあげ、それぞれ3つ、合計6個の観点を提示しました。

本稿では、株式会社プリンシプルが事業ドメインとしている「Webマーケティング」が、「スジの良い仕事」と言えるのかについて、なるべく「身びいきを避けて」私の視点から点検します。

なお、Webマーケターには事業会社の社員である場合(インハウス)とプリンシプルのような支援会社のコンサルタント(支援側)の2つがあります。本記事では、支援会社側のWebマーケターの仕事の「スジの良さ」について考察します。

まずは6個の観点のおさらいです。詳しくは第2回の記事をご覧ください。

1. 時間資本が効率よく人的資本として蓄積されること

  • a) 比較的短時間で自立できる仕事である
  • b) 創意工夫の余地がある仕事である
  • c) 短期間で多数の打席に立てる仕事である

2. 蓄積した人的資本が社会資本に転換されること

  • a) 人的資本が組織でなく、個人に蓄積される
  • b) 人的資本が特定の会社だけでなく、幅広い産業で資本として通用する
  • c) 蓄積した人的資本を広く世の中に知らしめる手段がある

1-a 比較的短時間で自立できる仕事かどうか

「自立」をどう定義するか次第、また、Webマーケターを志す人の飲み込みの速さ次第ですが、一定期間のきちんとしたWebマーケティングのトレーニングを受けたあと、先輩や上司の監督・指導があり、かつ、(納品テンプレートや、過去の納品物のサンプルなどの)会社の資産を利用できる環境であれば、1年でクライアントを担当できると思います。

逆に言うと、その3点が揃わないと難しいと思います。Webマーケターには、フリーランスの方も多い印象ですが、ほぼ例外なく最初は企業で上記の環境を手に入れ、そこで自立したという経験があるのではないかと思います。ですので、1-aについては、「条件付きで当てはまる」としたいと思います。

1-b 創意工夫の余地があるか?

Webマーケティングの仕事は、大いに創意工夫の余地があります。

例えば、Web広告の場合、「クライアントのお客様」の属性や行動特性に合わせて新しい媒体の開拓を行うことや、広告のクリエイティブの改廃、最適化戦略の選択に創意工夫が必要です。むしろ、創意工夫なしには成果を出せないので、創意工夫は必須と言えます。

従って、1-bについては「大いに当てはまる」と評価したいところではあります。

一方、今後の生成AIのさらなる進化や普及により、コンサルタント(人間)の創意工夫によるアイデアは、生成AIからももたらされる、あるいは人間が行うよりももっと網羅的に探索された、人間のアイデアを超える「最適解」が生成AIからもたらされる可能性すらあります。

そのため、Webマーケティングの仕事における創意工夫の余地は生成AIによって脅威にさらされていると言えます。

とはいえ、生成AIの成り立ちを考えると学習量が圧倒的に不足しているので、少なくとも近い将来においては複数の分野をまたがった「最適解」を出力できるとは思えません。(ここでいう複数分野とは、「SEO観点を加味したWeb広告運用」「SNSでの集客状況を加味したSEO施策の優先度の重み付け」「GAで判定したコンテンツの効果性を加味したSNS広告運用」などをさします。)

そこで1-bの結論としては「現状、創意工夫の余地はあるが、生成AIによって脅威を受けている。ただし、分野をまたがった(=越境的な)創意工夫は、今後、人間だからできることとしてWebマーケティングの仕事で求められ続けていく」としたいと思います。

1-c 短期間で多数の打席に立てるか

この観点は完全に当てはまります。Webマーケティングの成果は、通常は1ヶ月ごと、短サイクルの場合には週ごとに判断されます。つまり、最低でも1クライアントあたり、1年で12回打席に立てます。3クライアント担当すれば36打席です。

ですので、1-cについては「大いに当てはまる」としたいと思います。

2-a 人的資本が組織でなく、個人に蓄積されるか

Webマーケティング自体は、最終的にはコンサルタント個人が創意工夫して、クライアントに提案した施策を通じて成果を出す仕事です。

一方、Webマーケティングだけでなくどの仕事にも言えることだと思いますが、第一義的には人的資本が組織に蓄積されるか個人に蓄積されるかは、勤務する企業によって変わってくる面があるかと思います。

例えば、勤務先が「チームとして働く」ことを推奨している場合でも、その意味合いは企業によって異なります。1つの形としては、業務を分割し、それぞれが担当範囲を受け持つことでチームとして機能するケースがあります。

一方で、別の形としては、自分で考えた提案をクライアントに提出する前に、上司や同僚からフィードバックを受ける場としてチームが存在する場合もあります。また、成果を出すためのアイデアが自分だけでは見つけられなくなった際に、上司や同僚に相談できる環境としてのチームも考えられます。

このように、「チームとして働く」といっても、その実態は組織ごとに大きく異なります。ですので、2-aについては「性質的には当てはまるが、実際のところは勤務する会社のスタイルによる」というのがわたしの見解です。

2-b 人的資本が特定の会社だけでなく、幅広い産業で資本として通用するか

Webマーケティングは(今、積極的に取り組んでいない会社も含めて)ほぼすべての会社で行った方がよい活動です。その理由は、顧客がWebを通じて情報収集し、申し込みや対応を求めることが一般的になっているためです。

さらに、「生まれたときからインターネットがあった」世代の人口割合が増えていくことを考えると、その状況が突然止まるとは思えません。

また、Webマーケティング自体は、どんどん専門的に、どんどん高度になっています。Webマーケティングに取り組む企業が増えたために、一昔前であればそれでも成果を出せた「一般的なやり方」では期待する成果を出すのが難しくなっています。その結果、多くの企業がWebマーケティングについて外部企業の支援を必要とする傾向が強まっていると考えられます。

ですので、2-bについては「大いに当てはまる」と言えます。

2-c 蓄積した人的資本を広く世の中に知らしめる手段がある

この点ではWebマーケティングは疑いなく当てはまります。エビデンスは、ネット上に満ちているブログの数々です。ツールの使い方から、成果がでた事例まで、数多くのブログがあります。

また、Web担当者フォーラムや、Markezineなどの専門メディアもあり、「寄稿」という形で自分のスキルや知識を世の中に知らしめることも可能です。さらに、最終的には書籍を書く(=書籍に対する需要がある)こともできます。

ですので、2-cについては「大いに当てはまる」と言えます。

まとめ

この記事では、「Webマーケティングに関する仕事」を、特に「支援側のコンサルタント」に焦点を当てて6つの観点で検証しました。筆者の主観的な判断も入っていますが、概ねすべての観点に当てはまり、Webマーケティングは比較的「スジの良い」仕事に該当するのではないかと思います。

もし、読者の知り合いにWebマーケティングを仕事にする方がいれば、ぜひ意見を聞いてみてください。

さて、ここまで読んで頂いた読者の方の中には「今の仕事に比べると、Webマーケティングの仕事の方がよほどスジが良い」と思った方もいらっしゃるかと思います。次回の第4回となる最終記事では、Webマーケティングを仕事にする方法について、わたしの考えを述べたいと思います。

第1回の記事:「キャリアの行き詰り」点検のすすめ|マーケターキャリア連載 第1回
第2回の記事:「スジの良い仕事」の要件を考察する|マーケターキャリア連載 第2回

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木田和廣

早稲田大学政治経済学部卒。取締役 フェロー

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