人生の中で、多くの人が一度は「キャリアが行き詰まった」と感じる瞬間を経験するのではないでしょうか。

仕事への情熱が薄れたり、成長の実感が得られなかったり、年収が頭打ちなのではないかと懸念せざるを得ない状況は、誰にとっても苦しいものです。しかし、そのような時こそ冷静に状況を見つめ直し、次の一歩を考える絶好のタイミングとも言えます。

一方、毎日の仕事を一生懸命する余り、あるいは忙殺されて、自分のキャリアが「行き詰まっている」ことに気づかない、あるいは目を逸らしてしまうということもあるでしょう。

本記事では、まず曖昧に捉えがちな「キャリアが行き詰まる」とはどういうことかを明らかにし、そしてその定義に基づいて自身のキャリアを振り返ります。

キャリアが行き詰まるとはどういうことか?

「キャリアが行き詰まる」とは、「ポジティブな将来展望を描けない仕事についており、それに自分で気づいた」という状況です。以下は、『人生の経営戦略』(ダイヤモンド社、著者:山口周、2025年1月14日 第1刷発行)のP.55からの引用です。この図で「キャリアが行き詰まった状況」を説明します。

この図は、人生の目標をウェルビーイング(いわゆる、幸せと感じる時間を過ごすこと)だと置いた時に、我々にできることは「時間資本」(我々が平等に持つ24時間)を「人的資本」に変えること「だけ」だと言っています。

人的資本とは、図の上部の枠にあるように、スキル、知識、経験などを指します。手持ちの「時間」という資本を投入して、それをまずは「人的資本」に変換する。そして、人的資本が蓄積できると次に、スキル、知識や経験が評判となり、他の人から信頼されたり、信頼できる仲間ができたり、力のある同業者に認められたりといった「社会資本」に昇華します。

そして、最後に、その社会資本を利用すると、良い仕事を発注してもらえる、本の執筆を依頼される、有望なベンチャー企業に株を持たせてもらう形で入社するなどといった形で、「金融資本」になっていくということになります。

そして、ウェルビーイングとの関係で言えば、良い人的資本は、自分に自信が持てる、自分の知識やスキルに誇りを持てるという形でウェルビーイングに繋がります。良い社会資本は、業界で信頼されていると感じる、信頼できる仲間がいるという形で繋がります。潤沢な金融資本は言うまでもありません。

 

分かりやすいですね。

 

上記の図が「人生の経営戦略」として正しいとしたとき、「キャリアが行き詰まる」とは、「時間資本を投入しても、知識・スキル・経験からなる人的資本が積み上がらない仕事をすること」ということになります。

例えば、同じ作業を繰り返すだけで新たなスキルや知識が得られない仕事や、やり方が完全に決められていて創意工夫をする余地のない仕事、ある会社内でしか必要とされない特殊な知識やスキルしか蓄積できない仕事などは、人的資本が積み上がりにくい「スジの悪い仕事」であり、キャリア的には行き詰まりやすい仕事だと思います。

「キャリアが行き詰まった」と感じている方も、そんなことは考えてもみなかったという方も、上記の定義に照らして、ご自身のキャリアが「行き詰まっていないか?」一度考えてみるのは有意義だと思います。

参考になる場合もあると思いますので、私自身のキャリアを振り返ってみましょう。

自分自身の体験談

わたしは今58歳で、職業上のキャリアは(少なくとも定年退職年齢までの期間のキャリアは)終わりに近づいています。では、自分自身のキャリアを振り返って、「スジの良い仕事」に取り組めたのか?「人的資本」や「社会資本」は積み上がったのか?を見ていきます。

ちなみに、わたしが本ブログ記事で引用した山口周さんの「人生の経営戦略」を読んだのはつい先日です。ですので、山口さんの提唱する理論を知らずに働いたという前提でお読みください。

第一期(22歳~33歳)

新卒で商社に入社し、自動車を輸出する仕事をしていました。

その当時はイケてる仕事と思っていましたが、自動車の輸出は、メーカー→商社→現地代理店という商流が確立されています。新規の売り先というのはありません。また、自動車の販売台数は輸出国の政治・経済で大きく変わり、個人が才覚を発揮する余地はほぼありません。

「人生の経営戦略」に照らし合わせると「スジの悪い仕事」だった可能性が高いと言わざるを得ません。

第二期(33歳~36歳)

商社からインターネットベンチャーに転職しました。仕事内容は、広報、マーケティング、営業です。商社での仕事と異なり、創意工夫の余地ばかりでした。インターネットのこともたくさん勉強できました。

しかし、自分に「人的資本を蓄積するのだ」という意識が不足していたためでしょう、目立った人的資本を蓄積することはできませんでした。「スジの良い仕事」の可能性はあったが、自分ではそれに気づかなかった。ということだと思います。

第三期(38歳~40歳)

キャリア上の暗黒時代を経て、とある御縁から、Web解析ツール「WebTrends」の営業をするようになりました。WebTrendsがオンプレのツールだったこともあり、サーバーのスペックの見立てや、マシンのデータセンターへの設置方法など新しい知識を得ました。(横で見ているだけでしたが)。

一方、結果論ですが「WebTrends」がWeb解析ツールの競争では敗れたこともあり、この時期に得た知識・スキルは「人的資本」とはなったのでしょうが、「社会資本」に昇華されることはありませんでした。

法則として、特定ツールの固有の知識・スキルでは社会資本に昇華しづらいという点はあると思います。

第四期(41歳~43歳)

突如Googleから、Web解析ツールGoogle アナリティクスがローンチされました。WebTrendsの営業の仕事が減っていく一方だったこともあり、Google アナリティクスの勉強を開始しました。

特に注力したのは、1) タイトルに「Google アナリティクス」とつく書籍は日本語でも英語でも片っ端から読むこと、2) (その当時存在した)ユーザーフォーラムで回答すること(できれば全部回答するという姿勢で、最終的には2,000件以上の質問に回答したと思います)の2つです。

今から振り返ると、WebTrendsの営業を通じて得たWeb解析についての知識を、その2つの活動でさらに深め、人的資本を積み増した。ということになるかと思います。

第五期(44歳~現在)

Google アナリティクスのユーザーフォーラムに精力的に回答するという行動は、外部からよく見えます。どの回答者が何件回答したのか、そのうち、何件が「解決済」になったのかがフォーラムに明示されるためです。

それによりGoogle アナリティクスについて持っている知識・スキルが、「Google アナリティクスに詳しい人だ」「無償のボランティアで精力的にフォーラムに回答する人だ」という社会資本に転換しました。

すると、しばらくしてGoogle アナリティクスについての書籍執筆のオファーが来ました。そこからはご存知の方が多いので割愛します。

編注: 木田略歴・執筆歴
X:https://x.com/kazkida

こうして振り返ると、山口周さんの「人生の経営戦略」に書いてあることは基本的には正しいと思います。一点補足するとすれば、「人的資本は自然に社会資本に転換するのではない」という点でしょうか。人的資本は他の人に見えるようにしないと社会資本に転換しづらいと思います。

次回のブログ記事はプリンシプルも支援を行っている「Webマーケティング」は「スジの良い仕事」足り得るかというテーマで書いてみたいと思います。

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木田和廣

早稲田大学政治経済学部卒。取締役副社長。カスタマーサクセス室室長。チーフ・エバンジェリスト。

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