アジャイル開発の主流であるスクラム手法は、その柔軟性と迅速な開発サイクルで知られています。しかし、品質管理の面では特有の課題も伴います。

この記事では、スクラム開発の基本、現実における問題点、そしてウォーターフォールのV字モデルとのハイブリッドアプローチを通じた品質管理の強化方法について詳しく掘り下げます。

スクラム開発の基本と現実での問題

スクラム手法は短期間のスプリント(開発サイクル)を回しながらサービスを継続的に開発・改善するアジャイル開発の一形態です。

透明性、柔軟性、メンバーとの協力を基本原則としながらも、予期せぬ変更や外部からの要求にどう対応するかが、プロジェクト成功の鍵を握ります。

スクラム開発の基本:「確実さ」「スピードやコスト」「インパクト」の捉え方

スクラム開発を成功させるには、「確実さ」「スピードやコスト」「インパクト」の三つの軸でトータルに吟味し、取り組み施策の優先度を捉える観点が非常に重要です。

またアサインメンバーのレベル感や関係性を捉え、計画段階で実現性をどう捉えるかも、その品質管理において重要になります。

確実さ

取り組む施策が想定通りに実施できるかどうか?そのリスクを最小限に抑えるため、スクラムマスターがリードして、リスク分析を定期的に開催。メンバー以外にも関連する社内外の有識者の意見を集めながら整理していきます。

スピードやコスト

効率的なタイムマネジメントのため、プランニングポーカー(注1)などの手法を活用し、作業の見積もりとスプリント計画を行います。

インパクト

実現した際の効果の高さを測ります。開発において想定されるインパクトとコストは比例していることはままありますが、検証観点は複合的に捉えられます。
データ分析から得られた知見、カスタマージャーニーマップを作成から取りこぼしている観点、またABテストから即時のフィードバックを取り入れられることもありますので、インパクトある施策の洗い出しはさまざまです。

(注1)プランニングポーカー:
アジャイル開発で用いられる見積もり手法で、チームメンバーがタスクの難易度を相互で算出し、共同で合意に至るプロセスのこと。

スクラム開発の現実問題:理想と現実のギャップ

スクラム開発は理想的なフレームワークとして多くの利点を提供しますが、実際の運用ではさまざまな課題が顕在化します。教科書どおりにプロジェクトが進行することは稀で、現実の開発現場では以下のような問題が頻繁に発生します。

要件の増加

精査を重ねるにつれ、プロジェクト要件のスコープが徐々に拡大することがあります。これはプロジェクトの予算やスケジュールに直接的な影響を及ぼします。

リソースの制約

必要なリソースが確保されていない、またはメンバーの実際において適切なスキルセットを持っていない場合があります。これによりプロジェクトの進行が妨げられることがあります。

メンバーの期待管理

参加メンバーがスクラムプロセスの反復的な性質を理解していないため、不満が生じることがあります。

さらに、スクラムチームが完全に独立して機能することは難しいという現実もあります。多くの組織では以下のような追加の課題が存在します。

スクラムチームの独立性の欠如

理想的なスクラムチームは自己完結しているべきですが、実際には多くの場合、組織的な依存関係や他チームとの連携が必要(推進上のネック)となります。

上層部からの突然の要求

「担当レベルの改善施策」を進めている最中にも、「上から言われた差し込み事項」など、外から突然の制約が加わることがあります。これにより計画されていた作業が中断され、スプリントの目標達成が困難になることがあります。

これらの問題に対処するためには、チーム全員が透明性を持ってコミュニケーションを取り、定期的なレビューと調整を行うことが必要です。また、スプリント計画やデイリースクラムなどの定例会を正しく実施することが、要求や要求仕様を管理しプロジェクトを軌道に乗せる上で重要です。

ハイブリッドアプローチの必要性

このようにスクラム開発を効果的に実行する中では、プロジェクトの規模や変更の大きさに応じて異なるアプローチが必要となります。

大規模な取り組みや、重要な機能の変更が求められる場合

とくに大規模な取り組みや、重要な機能の変更が求められる場合、スクラムの柔軟性だけでは対応が困難なことがあります。このような状況では、計画的で徹底的な変更管理が求められるため、ウォーターフォール手法の要素を取り入れることが有効です。

途中で要件が変わる可能性がある大きなプロジェクト

途中で要件が変わる可能性がある大きなプロジェクトでは、スクラムの反復的なアプローチに加えて、ウォーターフォールのV字モデルを適用し、変更管理と再計画を意識的に組み込む必要があります。これにより、プロジェクトの各段階での要求仕様と成果物が明確にマッチするかを確認しながら、より厳密な品質管理とリスク評価が可能になります。

このようにスクラム開発の柔軟性とウォーターフォールの計画的な特性を組み合わせることは、プロジェクトが未知の変更や大規模な課題に対しても柔軟かつ効果的に対応できるようにするための戦略です。

言い換えれば、スクラムを実施する上で、必要に応じてウォーターフォールのV字モデルの適用を常に念頭に置くべきということとなります。これは、スクラムとウォーターフォールのハイブリッドモデルが、品質管理とスケジュールの両方を最適化するための重要な手段となり得ることを意味します。

ウォーターフォールのV字モデルとのハイブリットアプローチ

ウォーターフォールモデルは、ソフトウェア開発の古典的なアプローチで、プロジェクトを段階的に進めることを特徴としています。各フェーズが完了してから、ケースによっては移行の判定プロセスも経て、次のフェーズに進む工程管理手法です。

V字モデルはこのウォーターフォール開発の一形態であり、品質管理に焦点を当てています。

V字モデルの特徴

V字モデルでは、プロジェクトの進行段階とテスト段階が対応関係にあり、各フェーズのクオリティ検証が体系的に行われます。これにより、品質管理の粒度をコントロールし、高い品質管理が担保されます。

  • 要求整理:プロジェクトの初期段階でユーザーの要求を整理し、受け入れテストでこれらの要求が満たされているかを検証する
  • 要件定義:システム全体の要件を定義し、システムテストでこれらの要件が正しく実装されているかを確認する
  • 基本設計:システムの基本設計を行い、結合テストで各コンポーネントが適切に連携し機能しているかを評価する
  • 詳細設計:詳細な設計を行い、単体テストで各モジュールが設計どおりに動作するかを確認する
  • 実装:システムを構築し、全てのテストフェーズで設計時に設定された基準に対してシステムがどれだけ合致しているかを検証する

このように、V字モデルは左辺で行われた設計や要件定義が、右辺の対応するテストフェーズで逐次検証されることで、品質管理が徹底されます。これにより、各フェーズでの不具合を早期に発見し修正することが可能となり、最終的な製品の品質を高めることができます。

ウォーターフォールのV字モデルは、明確な要件と予測可能なプロジェクトスケジュールを必要とするプロジェクトに適しています。デジタルマーケティングの部門では、とくに新規性を帯びたキャンペーンや大規模なデジタルトランスフォーメーションプロジェクトにこのモデルを適用することで、各段階の成果物が期待通りの品質を有するか確実に検証できます。

V字モデルとスクラムを組み合わせるメリット

計画的なウォーターフォールのV字モデルをスクラムの柔軟性と組み合わせることで、大規模プロジェクトや変更が多いプロジェクトにおいても、リスクを抑えながら効率的に進めることが可能です。

このハイブリッドアプローチは、とくに品質を維持しながらスケジュール通りにプロジェクトを進行させるための有効な戦略となります。

最後に

弊社では、ECサイトのリニューアルや情報基盤のリプレイスなど、デジタルマーケティング領域の開発プロセスにおいても、プロジェクトマネジメントの側面から積極的に支援を行っています。

アジャイル開発とウォーターフォールのハイブリッドアプローチを駆使することで、お客様のプロジェクトが直面するさまざまな課題に柔軟かつ効果的に対応し、期待を超える成果を実現します。

お客様のビジネスが次のステージへと進むための強力なパートナーとして、ぜひ弊社の経験と専門知識をお役立てください。

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小柳貴志

20年以上にわたり、ソフトウェアメーカーやSIerにおいて、サービス構築やビジネスインテリジェンスの導入など、コンサルタントやプロジェクトマネージャーとして従事。現在はプリンシプルとしてサービス横断的な案件を担当。

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