はじめに
SEOコンサルタントの外山です。
ウェブサイトのリニューアルにおいて、みなさんはSEOをどれくらい意識し、検討していますか?
ウェブサイトのリニューアルは様々な目的のために実施されますが、SEO観点での検討や対策が十分に実施されない場合、今までの流入を大幅に失ってしまうリスクが潜んでいます。逆にリニューアルは、サイト構造やリンク構造の改良など、普段ではなかなかできなかったSEO施策を行うチャンスでもあり、流入を大幅に改善していくことも可能です。
本記事では、私の今までの経験をもとに、サイトリニューアルにおいて心得ておくべきSEOのポイントを5つご紹介していきます。
ポイント1. リニューアル計画当初から最後まで、SEOを要件として組み込む
サイトリニューアルではサイト構造やページ要素が大幅に変化しますので、現在の流入を減少させるリスクを少なからず含んでいます。実際、SEOの観点を踏まえた検討や対策を行わずにリニューアルを行った結果、流入が30%も減少してしまったケースも存在します。
一方で、SEOの観点からの検討や対策を十分に行えば、流入を減少させることなくサイトをリニューアルすることも可能です。そのためには、計画当初からサイトのリリース時まで、SEOを意識し、SEOを「要件」として考慮することが重要となります。
例えばリニューアルにおいては、下表のようにビジネス要件から実際のサイト構造、デザイン、運用要件に至るまで、考えるべき事項は非常に多く存在します。
表:リニューアルにおいて考えるべき事項の例
階層(レイヤー) | 概要 |
---|---|
ビジネス要件 | ウェブサイトの目的(ブランディング、営業リード・採用リード獲得等)、KPI など |
解析要件 | 主要な計測項目、レポーティング項目、GAでの目標(CV)設定、GTMでのイベントトラッキング設定 など |
インフラ要件 | ドメイン、サーバー環境、ネットワーク(ロードバランサーの有無)、セキュリティ、死活監視、バージョン管理ツール など |
システム要件 | 使用CMS、言語・フレームワーク・ライブラリ、使用プラグイン、対象デバイス、対象ブラウザ など |
サイト構造 | URL仕様、ディレクトリ構造、内部リンク構造 など |
コンテンツ | ブランディングコンテンツ、営業コンテンツ、採用コンテンツ、その他のコンテンツ など |
ワイヤー・デザイン | ブランドカラー、トンマナ、ページ構成、レイアウト、Call to Action(CTA)の位置、フォームへの導線 など |
コーディング | ページ要素(title, description, h1)、構造化データなど |
運用要件 | リニューアル後のウェブサイト更新の運用体制や、運用のためのマニュアルの整備 など |
これらの要件を検討する際に、SEOも考慮することが重要です。ただし「SEOのため」だけに行うリニューアルではないので、与件には柔軟性を持つことも重要となります。
ポイント2. 狙うべきキーワードをどのページで獲得するかを整理し、キーワード戦略を構築する
サイトリニューアルにおいて必要なSEO項目は多岐にわたります。ざっと列挙したとしても、10項目程度は存在するでしょう。
項目 | 概要 |
---|---|
キーワードマーケティング調査 | 現状SEOで獲得できているキーワードと、取りきれていないキーワードを洗い出し、獲得して行きたいキーワードリストを作成します。 |
カテゴリ設計 | キーワードマーケティングの結果をベースに、SEOとして最適なカテゴリ設計を検討・構築します。 |
サイト構造要件定義 (ディレクトリ・リンク構造・URL仕様) |
SEOパフォーマンスに優れたURL・ディレクトリ・内部リンクのルールを設計します。 |
サイト技術仕様要件定義 | サイト構築の際に遵守すべき技術的な要件を一覧化して整理します。 |
ワイヤー改善指示 | 各ページ構造を情報設計フェーズで確認し、コンテンツ配置や内部リンク構造について確認します。 |
HTMLコーディングチェック | コーディングする上で気をつけるべき項目を列挙し、確認します。 |
タイトル・ディスクリプションルール設計 | 各ページのタイトル・ディスクリプションのルールを設計します。 |
コンテンツ/リダイレクトマッピング | コンテンツ評価を正常に引き継ぐように、新旧URLの間でリダイレクトマッピングを作成し、301リダイレクトを適切に設定します。 |
テスト環境チェック | 本番リリース前の段階で各種調査を実施し、パフォーマンスに支障がでないように確認をします。 |
本番リリース後チェック | リニューアル前後でSEOパフォーマンスを調査し、問題発生時には、速やかに改善方針を立てます。 |
XMLサイトマップ送信・GAやGoogle Search Consoleなど、パフォーマ ンス計測の準備設定 | XMLサイトマップの送信を行うとともに、計測ツールの各種設定を適切に行います。 |
リニューアルプロジェクトの初期の段階において、まずはキーワードマーケティング調査を行い、その結果をもとに、サイト構造やURL仕様、各ページのSEO与件(構造化データを設置するか、canonicalの方針など)を定めていくことが重要であると私は考えます。
キーワードマーケティング調査では、3C(自社・競合・市場)分析などをもとに、自社で取れているキーワードと取れていないキーワードを明確にします。また、ターゲットユーザーが、どのようなキーワードを検索してどのようなページにたどり着いているか、その現状と理想を、マーケティングファネル上で明確にすることが必要となります。
ターゲットユーザー | キーワードグループ | キーワードの例 | ランディングページ |
---|---|---|---|
会社やブランドをよく知っているユーザー | ブランドワード | 【社名】 【ブランド名】 |
TOPページ |
会社やブランドについて何かをしたい・知りたいと思っているユーザー | ブランドワードの 掛け合わせ |
【ブランド名】 【カテゴリ】 【ブランド名】 店舗 |
カテゴリページ 店舗ページ |
特定の商品カテゴリについて何かをしたい・知りたいと思っているユーザー | 商品カテゴリ | 【商品カテゴリ】 | カテゴリページ |
特定のカテゴリの商品を買いたい、または関連情報を知りたいと思っているユーザー | 商品カテゴリの 掛け合わせ |
【商品カテゴリ】 通販 【商品カテゴリ】 比較 【商品カテゴリ】 人気 |
カテゴリページ 特集ページ |
特定の商品を買いたい、知りたいと思っているユーザー | 商品名 商品名のかけあわせ |
【商品名】 【商品名】 通販 |
商品ページ |
図:ECサイトにおけるマーケティングファネルとキーワード設計の例
ポイント3. サイトのタイプ別にSEOの与件を整理する
サイトリニューアル時のSEOのポイント3つ目は、サイトのタイプに応じてSEOの与件を整理するということです。一般的なSEO項目は多くありますが、サイトのタイプによって事情(流入経路や狙うキーワードなど)が異なるためです。
リニューアルにおいて確認が望ましい一般的なSEO項目の例
リニューアルにおいて気を付けるべき項目としてはどのようなものがあるでしょうか。
詳細はサイトのタイプ(ECサイト・メディアサイトなど)や個々のサイトの事情に応じて異なるでしょうが、どのサイトにおいても気を付けるべき一般的な項目としては、以下のようなものが考えられるでしょう。
1. 解析基盤の準備
・ GAのプロパティ・ビューなどの設定
・ GTMの設定
・ GSCのプロパティ設定
2. サイトマップの作成と送信
3. 重点的にクロール・インデックスさせるURLの特定
4. リダイレクト処理
・ 旧URLの体系の整理
・ 新URLの体系の整理
・ 旧URL→新URLのマッピングの作成
・ 301リダイレクト設定
5. クロールさせないURLの特定とrobots.txtによるクロール防止
6. 重複しているURLの特定とcanonicalの設定
7. インデックスさせないURLの特定とnoindexの設定
8. ページごとのtitle, description, h1の設定の確認
9. ページごとに設置する内部リンクの整理と確認
・ パンくずリスト
・ その他の内部リンク(関連ページへのリンクなど)
10. ページごとのコンテンツの確認(過不足の調査)
11. ページごとに設置する構造化データの確認
・ パンくずリスト
・ 商品
・ 記事
・ レビュー など
12. モバイル対応の確認
13. コアウェブバイタルの確認
・ 読み込み速度
・ レイアウトシフト
クロール・インデックスさせるURLの精査
ウェブサイトにおけるURLは、下図の6種類に大きく分類されます。それぞれの分類ごとに、URLを適切に管理していくことが重要となります。
クロールの優先度は1が一番高く、2、3、4と続きます。5以降はクロールさせないようにコントロールします。
インデックスして欲しいページへのクロールを促進するには、基本的にはサイトマップを整えカバレッジ上の未登録項目を適切に解消すること、クロールして欲しいページに対して適切な内部リンクを設定すること、の2つが重要であると考えます。
サイトのタイプ別にSEO与件を整理する
以上、一般的なSEOの与件について説明しましたが、サイトのタイプ別にも注意すべき与件が存在します。下記はECサイトの例ですが、商品詳細ページ・商品カテゴリページ・記事ページごとに与件は異なります。そのため、サイトのタイプやベージの種別ごとに与件を整理することが重要です。
【商品詳細ページ】
流入経路/狙うべきキーワード
- 「カテゴリ名」「ブランド名」 や、その色・サイズなどの掛け合わせワードからの、人気商品枠や画像検索からの流入
- 具体的な商品名からの流入
求められるSEOの与件
- 速やかなインデックス登録(XMLサイトマップの活用やRSS/ATOMフィードとの併用)
- 速やかなインデックス削除(404の適切なコントロール)
- 他のページと重複しないページ内容
- Productの構造化データの精緻化 など
【商品カテゴリページ】
流入経路/狙うべきキーワード
- 「カテゴリ名」「ブランド名」 や、その色やサイズなどの掛け合わせワードからの、通常の検索結果画面からの流入
求められるSEOの与件
- 検索軸の整理と優先順位付け(カテゴリ軸、ブランド軸、色・サイズ軸など)
→ かけわせも含めると膨大な数となるページに対して、優先順位を付けた上で、クロール・インデックスを効率化する - インデックスさせないページでの適切なcanonicalやnoindex
- 商品が存在しない一覧ページでの適切な404コントロールや、商品が発生/復活した場合の速やかなインデックス復帰
【記事ページ】
流入経路/狙うべきキーワード
- ターゲットユーザーのニーズやトレンドに即したワードでの、検索結果画面からの流入
- Discoverや画像検索からの流入
求められるSEOの与件
- ユーザーのニーズやトレンド、競合の状況などを踏まえたキーワードマーケティング調査による、ターゲットキーワードの明確化
- 記事コンテンツがGoogleに正しく伝達されるための工夫(Articleの構造化データの精緻化や、執筆者情報の精緻化など)
- 記事コンテンツのCV貢献などの明確化(GA4の活用など)
ポイント4. 新旧サイトのコンテンツをもれなく整理し、リダイレクトを適切に設定する
リダイレクト設定は、旧サイトへの流入を取りこぼさないためには必須のものとなります。一般的な手順は以下となります。
- 1. 元の URL を特定する
- 2. 元の URL から新しい URL へのマッピングを作成する
- 3. 301 リダイレクトを準備する
- 4. リダイレクトの内容をテストする
その他リダイレクト設定に関する詳細については、以下の弊社記事でも説明していますので、是非お読みください。
» サイトリニューアルで失敗しないためのリダイレクトマッピング
ポイント5. 柔軟性を持ち、二の矢・三の矢を用意する
サイトリニューアルには製作のプロセスだけでなく、合意形成と取捨選択のプロセスも存在します。たくさんの「やるべきこと」や「やった方がいいこと」から、時間とリソースも考慮した上で、「本当にやること」を決定しなくてはいけません。
「SEO」を考慮することは重要ですが、全体のバランスの中では、SEOの重要性が下がることもありえます。そのような時でも、柔軟性を持ち、二の矢・三の矢という「代替案」を用意しておくことが重要となります。
実例:リダイレクト設定における柔軟性
旧サイト:https://ドメイン名/prodcut/商品ID
↓
新サイト:https://ドメイン名/カテゴリ名/prodcut/商品ID
URLの仕様を上記にしたいとの要望がありました。リダイレクトの設定が困難となるため、当初は難航しましたが、最終的には以下の様にリダイレクトを二回行う仕様とすることで、事なきを得ました。
旧サイト:https://ドメイン名/prodcut/商品ID
↓ 301リダイレクト
新サイト:https://ドメイン名/prodcut.php?product_id=商品ID
↓ プログラム内で、商品IDからカテゴリを同定し、カテゴリ名を付与したURLへ301リダイレクト
新サイト:https://ドメイン名/カテゴリ名/prodcut/商品ID
リニューアルの中ではSEOの要件以外が優先されることもありますが、それでもSEO的に最低限必要な要件を満たすよう、努力することが重要です。
さいごに
以上、本記事では、サイトリニューアルにおいて心得ておくべきSEOのポイントを5つ紹介しました。
サイトリニューアルとは、1つの目的のもとで、多くの関係者が共同で作業を実施する「協働作業」です。目的は1つでも手段は複数あり、「どの手段が有効か」などについて、時には関係者間で意見を戦わせることもよくあります。
定められた予算やスケジュールといった「制約条件」のもとで、少しでも「より良いウェブサイト」を構築すべく、関係者からあがってくる「多様な意見やアイデア」を、最終的には「一つの形」に落とし込むことが、サイトリニューアルの難しさであり、また醍醐味でもあると考えます。
リニューアルプロジェクトの1つ1つで、直面する困難さは違いますが、SEOについて何か困った時は、外部コンサルタントの活用も選択肢としてお考えください。本記事が、現在サイトリニューアルを検討されている責任者、あるいはサイトリニューアルが現在進行中である責任者の方にとって、何らかの参考となれば幸いです。